[ロンドン 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 網の編み目が粗いと、魚をたくさん捕獲できない。世界共通の最低法人税率を15%とする案にも同様に大きな穴があり、グーグルの親会社アルファベットのような巨大IT企業を取り逃すかもしれない。
英フィナンシャル・タイムズ紙によると、先進7カ国(G7)は近くこの最低税率で合意する可能性がある。イエレン米財務長官が4月に提案した21%ほど意欲的な案ではないが、重要な一歩であることに変わりはない。企業が海外で支払う税率が国際最低税率より低い場合、自国政府に差額を収めるよう義務付ければ、企業がアイルランドのようなタックスヘイブン(租税回避地)に利益を移す意味は薄れるだろう。
とはいえ、この措置によって抜け穴がすべてふさがれるわけではない。2018年の調査によると、抜け穴を通じた企業の租税回避は年間総額5000億ドル(約54兆5000億円)に上っている。税制調査機関タックス・ファウンデーションのデータによると、世界各国の法人税率は平均24%なので、一部企業には租税回避地を利用するインセンティブが今後も残るだろう。
経済協力開発機構(OECD)は、国際最低税率を12.5%に設定すれば世界の法人税収は900億ドルほど増加し、15%であればさらに増えると見込んでいる。それでも現在取り逃している5000億ドルには遠く及ばない。
各国の財務大臣は、自国企業が海外で得た利益に対し、合計15%以上の税金を課すことも可能だ。しかしその場合、租税回避地はグーグルや米フェイスブックなどの多国籍企業を誘致するため、新たな手口を画策するかもしれない。従業員関連の課税や不動産課税の優遇措置、その他の税控除などにより、実質的な税率を低くする可能性が考えられる。
最低税率の導入によって全体の税収が増えるとしても、税収を取り返すのは主に米国であり、フランスや英国、そしてインドなどの新興大国はあまり恩恵を受けないかもしれない。ゴールドマン・サックスの推計では、米国が圧倒的に支配するITセクターは世界の企業利益の20%を占めるが、税収に占める割合は10%にとどまっている。
フランスなどの国々は、自国内で米IT企業が稼いだ利益から自国が得る税収の割合を増やしたいと望んでいる。IT企業の利益はここ数年で急増しているため、こうした国々はさらに大規模な国際税制の改革を求めるだろう。
●背景となるニュース
*24日付の英フィナンシャル・タイムズ紙によると、G7諸国は多国籍企業への法人税率について合意に近づいている。
*米国が最低税率15%を受け入れると表明して以降、フランス、ドイツ、イタリアの3カ国が賛同し、この提案を土台にして7月までに国際合意を目指す意向を示した。英国は米国の姿勢を歓迎したが、具体的な提案内容には言及していない。
*現在、世界約140カ国近くがアルファベットやフェイスブックのような多国籍IT企業への課税ルール見直しを協議しており、OECDがとりまとめ役となっている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)