[北京 1日 ロイター] – 中国政府は5月31日、1組の夫婦に3人まで子どもを持つことを認める方針を発表した。しかしソーシャルメディアでは効果を疑問視する投稿や、政府が約束する「支援策」の具体的な内容を知りたいとの声が目立つ。 

政府は出生率の上昇を促すため、子どもの人数を2人までに規制していた政策を緩和した。数週間前に発表された国勢調査では急速な高齢化と出生率の低下が確認され、このままでは世界最多の人口が減少に転じるとの見通しが示されていた。

国営新華社通信は、新たな政策には「わが国の人口構成の向上に資する」支援策が盛り込まれると報じた。

しかし短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」では、新華社の記事に対する「よく分からない。支援策って何」という返信に約12万8000件の「いいね」が付き、最も人気を集めた返信となった。

ソーシャルメディアでは、都市部での子育てコストの高さを指摘する声が上がった。都市部では住宅価格が高い上、受験戦争が苛烈で子どもを私立の塾に通わせることが多く、子をもうける上での障害となっている。

米ピーターソン国際経済研究所が昨年公表した報告書によると、中国の女性はただでさえ労働参加と所得の面で男女格差の拡大に直面している。国による育児支援が減ったため、育児負担も増えている。

ウェイボには「大都市で働く女性はますます差別を受けるだろう。30歳以上の女性の職探しも、さらに難しくなりそうだ」という投稿もあった。

新華社によると、習近平国家主席が議長を務めた中国共産党中央政治局の31日の会議では、新政策と併せて教育コストを引き下げ、税制面と住宅面での支援を強化し、働く女性の法的権利を保証する方針が示された。しかし具体策は明らかにされていない。

北京大学の経済学教授で中国オンライン旅行大手、携程旅行網(シートリップ)創業者でもある梁建章氏は5月、政府は出生率を引き上げるため、新生児1人につき100万元(約1700万円)を親に支給すべきと提唱した。中国は2020年、1人の女性が産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」が1.3人と、高齢化が進む日本やイタリアと並ぶ水準になった。

梁氏は今週、同出生率を1.6人程度に引き上げるには、政府が現金、税控除、住宅補助、保育サービスなどの形で国内総生産(GDP)の約5%を子育て支援に支出する必要があるとの見方を示した。先進国ではこの比率が通常1―4%だが、中国は現在、「事実上0%」だと同氏は言う。

<1人っ子政策廃止の効果希薄>

中国は2016年に「1人っ子政策」を撤廃した後、一時的に出生率が上向いたが、その後再び低下。コストが上昇するにつれ、低下スピードも速くなった。

米ウィスコンシン大の科学者で、以前から中国の出産政策を批判してきたイー・フーシャン氏は、何十年にもわたる1人っ子政策が国民の考え方に染み付いてしまったと指摘する。

イー氏によると、日本は保育・教育の無償化や若い夫婦への住宅補助、児童の医療費補助などコストの掛かる政策により、2005年に1.26人だった合計特殊出生率が15年には1.45人に上がったが、19年にはまた1.36人に下がった。

「中国では子どもは1人かゼロ、というのが社会通念になった。社会・経済様式が1人っ子政策に適応しているため、その慣性が定着してしまっている」とイー氏は話した。

(Tony Munroe記者)