[東京 10日 ロイター] – 昨年7月の東芝株主総会について、株主から選任されて調査していた外部の弁護士は10日、「総会は公正に運営されたものとはいえない」と結論づけた。同社が経済産業省と一体となって、社外取締役の選任を提案していた筆頭株主などに不当な影響を与えたと認定した。
調査した弁護士3人は10日午後に報告書を公表。東芝や経産省の関係者が、株主対応について当時の菅義偉官房長官(現首相)のところへ説明に出向いていた可能性も指摘した。菅首相は同日夕、報告書の内容を否定した。
<改正外為法の趣旨を逸脱>
昨年の東芝の株主総会では、筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが同ファンドの共同創業者などを社外取締役に提案したが否決された。一部の議決権が結果に反映されなかったり、経産省の関係者が複数の海外株主に事前に接触していたことが明らかになっていた。
報告書によると、東芝は同総会における「物言う株主」への対応について経産省に支援を要請。改正外国為替法に基づく権限を背景とした不当な影響を規制を期待して同省と緊密に連携し、エフィッシモに株主提案を取り下げさせようとした。報告書は「改正外為法の趣旨を逸脱する目的で不当に株主提案権の行使を制約しようとするもの」としている。
改正外為法は、安全保障に関わる日本企業への外資規制を目的に、昨年6月に全面適用された法律。報告書は、東芝と経産省の行為は、安保上の理由でエフィッシモの提案を問題視して行われたと認めることは困難と指摘した。「随所に法令等に抵触する疑いのある行為すら見受けられる」という。
調査した弁護士は10日夕に開いた会見で、経産官僚の動きは国家公務員法が定める守秘義務に抵触しかねないと指摘した。担当課長がエフィッシモから得た他の株主宛てのレターを、東芝へ「逆流しないように」と述べたうえで送付していたことなどを問題視している。
東芝は報告書について、内容を慎重に検討して対応を開示するとしている。経産省は「内容については確認中」としている。
<ハーバード大ファンド、経産省参与の接触後に態度急変>
当時社長だった車谷暢昭氏などの取締役選任に反対を表明していた大株主のファンド、3Dインベストメント・パートナーズ(3Ⅾ)に対しては、3Dがエフィッシモ提案の取締役選任議案に賛成の議決権行使を行った場合、安全保障貿易管理政策課から外為法に基づく何らかの措置が取られる可能性があることを示唆し、3Dの議決権行使判断に一定の影響を与えたと指摘している。
東芝と経産省の関与を巡って、ロイターは昨年12月、経産省の参与が米ハーバード大学の基金運用ファンドに対し、東芝側の意にそぐわない形で議決権を行使した場合、改正外為法に基づく調査の対象になる可能性があると干渉していたと報じた。
調査報告書は、経産省から依頼を受けた当時同省参与のM氏がハーバードと接触した結果、ハーバードは議決権すべての行使をしなかったと結論付けた。
<官房長時代の菅氏も登場、車谷氏と朝食か>
報告書によると、車谷氏は総会前の2020年5月11日、菅官房長官との朝食会に出席。その際、同社長が菅氏に対し、持参した資料を使って事情を説明し、株主への対応を「説明したと推認される」としている。
車谷氏は弁護士の聞き取り調査に対し、朝食会で個別の話はできないと説明したが、報告書は車谷氏の発言は信用できないと指摘した。同年7月27日の朝食会に出席した加茂正治常務(当時)はそのときの面談内容について、「強引にやれば外為で捕まえられるだろ?」とのコメントが菅氏からあったと経産省課長に説明したとしている。
菅首相は10日夕、記者団に対し、「まったく承知していない」と報告書の内容を否定した。
<反省の弁はなかった>
今年4月に辞任した車谷氏は、調査団のヒアリングで今回の問題を自ら主導したとの疑いを否定。しかし、多くのメールの内容などから「主体的に関わっていなかったとの言葉を信用すべきでないと考えた」と、調査に当たった和田倉門法律事務所の中村隆夫氏は語った。
調査は関係資料を閲覧したほか、東芝の役員や元役員、社員計9人に聞き取りを実施。中村弁護士は「(ヒアリングの過程で)罪の意識(に言及したり)や反省の弁はなかった。それも(問題が起こった)ひとつの背景なのかもしれない」と話した。