東芝が25日に開催した定時株主総会で、永山治取締役会議長ら2人の社外取締役の選任が否決された。昨年の定時総会の運営を巡る問題や車谷暢昭前社長の突然の退任などが相次ぐ中、永山氏を取締役にとどめながらガバナンス(企業統治)改善を進めようとしたが、株主からの支持は得られなかった。
同日の株主総会で諮った唯一の議案が取締役の選任議案。11人の取締役候補のうち、永山氏と小林伸行監査委員会委員の2人の再任が否決された。一連の問題に対する内部監査未達の責任を問われた形だ。株主からは昨年の定時総会の問題を巡る質問も目立ち、質疑応答に要した時間は1時間40分近くに及んだ。
会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ代表理事は、東芝の定時総会では、株主が「取締役はしっかりとした取締役会運営にも責任を負うということを明確に示した」と指摘。全てが事前に決定されていた旧態依然の世界が崩壊したともいえ、「ある意味でこれは良いこと」と歓迎した。
スマートカーマのアナリスト、トラビス・ランディ―氏は永山氏は不正行為を犯していないものの、「取締役会議長が監査委員会の失態に責任を負わなければならないという考えが重要であり、株主が永山氏に責任があると確認したという事実は非常に重要だ」と指摘した。
まれな事例
株主の議決権行使により取締役会の中核メンバーが入れ替わる例は国内では珍しい。直近では2019年6月に開催されたリクシルの株主総会が話題になった。委任状争奪戦(プロキシーファイト)の結果、株主側が提案した取締役候補が全員選任され、最高経営責任者から解任されていた瀬戸欣哉氏がトップに返り咲いた。
ガバナンス問題に詳しい牛島信弁護士は、国内のビジネス界で信用の高い永山氏の再任否決について、「日本のビジネス全体にとって相当強烈なインパクトのある事件だ」と指摘。同氏の退任を望む株主の意志が貫徹したとし、逆に「東芝はこれでついに立ち直るチャンスを得た」と話した。
今回の定時総会では、海外投資家をはじめ機関投資家などの株主が、出資者の利益を守るために投資先の経営を監視して企業価値の向上を求めるスチュワードシップ・コード(投資家の行動規範)の存在も大きかった。
東京理科大学大学院の若林秀樹教授(経営学)は、「こういう形で取締役がシャンシャン、忖度(そんたく)の中でやるのではなく、緊張感を持つことはこれからのガバナンスの意味でもいいことだ」と話す。また、永山氏は追加の取締役を選任する臨時総会後に退任する気持ちもあったとみられるとし、同氏が去っても混乱はないと分析している。
第2位株主でシンガポールの資産運用会社の3Dインベストメント・パートナーズは総会後に発表した声明文で、総会の結果が「新たな時代の幕開けになることを期待している」とし、「東芝の将来と可能性に対して楽観的であり、今回の取締役会の変更を歓迎する」との見解を示した。
綱川氏が議長を兼任
東芝のレイモンド・ゼイジ社外取締役は、総会開催後の電子メールでの取材に対し、取締役会は株主の議決権行使の結果を「明確に認識している」とコメント。同社の安定を維持しながら、取締役会が株主からの信頼を回復するために「一丸となって取り組む必要があり、達成できると確信している」と述べた。
東芝は25日夜、総会後に開いた取締役会で、綱川智社長兼最高経営責任者(CEO)が暫定的に取締役会議長も兼務することを全会一致で決定したと発表した。また総会で取締役として承認されたジョージ・オルコット氏が取締役を辞任すると申し出があり、受理した。
今後開く臨時総会に諮る新たな取締役候補を見つけるために複数のヘッドハンティング会社に支援を求めるほか、社内外から綱川氏の後任候補を選定する。
同社は、ポール・ブロフ氏を委員長とした社外取5人で構成する戦略委員会が保有資産を全面的に見直す方針も発表。自己株式の取得や配当による株主総利回りの拡大を重視した事業計画も策定するほか、投資家と対話する。
プロフェッショナル経営者
慶応義塾大学大学院の小林喜一郎教授(組織戦略論)は、東芝の取締役会議長について「プロフェッショナル経営者のような、企業を渡り歩く経営能力のある方が望ましい」との考えを示した。具体的には海外からの視点や資本市場の立場から東芝を見ることができることなどを挙げた。
東芝は筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが提案し臨時総会で承認された弁護士による調査で、昨年の定時総会を巡り、経済産業省が一体となり株主の議決権行使を妨げるような行為があったと指摘され、永山氏らには監督責任を問う声も上がっていた。
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