【北京時事】中国の習近平国家主席が提唱した「共同富裕」の理念が国内で波紋を広げている。公平な社会の実現に向け、経済格差の是正に取り組む姿勢を明確にしており、負担を迫られる恐れのある富裕層や大企業の間で警戒感が高まっている。
習氏は経済問題を協議する17日の共産党の会議で「共同富裕は社会主義の本質的な要求」と明言した。会議では「高過ぎる所得の調整」に加え、「高所得層や企業に対して社会への還元を促す」方針が打ち出された。
中国当局は「小康社会(ややゆとりのある社会)」の実現をアピールしているが、所得格差を示す「ジニ係数」が社会不安を引き起こす恐れのある警戒ラインを大幅に上回るなど、貧富の差が深刻化している。
習氏の発言を受け、企業側は対応を急ぐ。インターネットサービス大手の騰訊(テンセント)は共産党の方針に賛同し、500億元(約8500億円)を貧困層支援などに充てる計画を公表。IT大手への締め付けが強まる中、他社も追随するとみられている。
一方、住宅価格の高騰が格差に拍車を掛けていることから、政府が不動産税の本格的な実施や相続税の導入に踏み切るとの観測も浮上している。実現すれば所得再分配を通じて格差の是正が進む半面、主要な課税対象となる富裕層への影響は避けられない。
共産党幹部は26日の記者会見で、くすぶる懸念を念頭に、共同富裕は「富裕層を犠牲にして貧困層を救うことではない」と説明、不安の打ち消しに努めた。ただ、習指導部は社会主義への回帰を強めており、今後はこうした傾向がさらに加速する可能性もある。