自民党総裁選(17日告示、29日投開票)前の電撃的な衆院解散が模索されているとの党内の観測は、1日に菅義偉(すが・よしひで)首相(党総裁)自身が打ち消し、幻となった。党内では、野党に転落する危険性もあるとして反発が拡大。総裁選を避けようとした印象も広がり、党内での首相の求心力は深刻な打撃を受けた。
「私は反対です」。首相に近い小泉進次郎環境相は8月31日、総裁選前の解散について首相にこう進言した。
31日、首相が党役員などの人事を行った上で衆院を解散し、総裁選は衆院選後に先送りするとの観測が急速に広がった。根拠は党や政権幹部の動きだ。
首相の最側近といえる森山裕国対委員長が、党重鎮にこうした流れも含め、今後想定される複数の日程を説明した。31日夜には加藤勝信官房長官、武田良太総務相、萩生田光一文部科学相、井上信治万博相が都内のホテルに集まり、早期の衆院解散という選択肢も含めて意見交換した。
総裁選には岸田文雄前政調会長が出馬表明し、政策論争に加え、激しい多数派工作も予想される。総裁選前の解散には、党が分断している姿を国民にさらさずに済むという利点が指摘される。総裁選で首相が勝利後に衆院選を行っても、有権者の首相に対する視線と結果は大差ないとして、理解を示す向きもあった。
しかし、党の大勢は違った。現職閣僚は「このシナリオでは野党転落だ」と頭を抱えた。
首相はこれまで、新型コロナウイルス対策を優先させると強調してきた。特別措置法に基づき21都道府県に発令中の緊急事態宣言は、12日の期限から延長されるとの見方が強い。この時期に解散すれば政治空白が生じるとの懸念がある。
加えて、総裁選の日程は確定しているため、細田派(清和政策研究会、96人)のベテラン議員は「総裁選で勝てないから行う私利私欲の『逃亡解散』といわれる」と批判。二階派(志帥会、47人)の中堅議員は「総裁選を飛ばせば党が吹っ飛ぶ」と語った。
首相に近い衆院議員は「首相は総裁選を行った後に衆院選を行う日程からぶれていない」として、首相が総裁選先送り論を唱えたわけではないと説明する。しかし、谷垣グループ(有隣会)のベテラン議員は「首相は自分のためならなんでもするというイメージが行き渡った」と話した。
衆院当選3回の若手には、総裁選で首相が立候補する際の推薦人になることに難色を示す議員も多い。
谷垣グループの中谷元・元防衛相は1日の会合で「人事で釣る方法もあるが、党員や国民がどう見るか。おそらく辟易するんじゃないか」と指摘した。