新型コロナウイルスの新たな変異株が南アフリカ共和国で特定され、同国の当局者は深刻な懸念を表明した。世界保健機関(WHO)は「B.1.1.529」と呼ばれてきた同変異株の名前にギリシャ文字のアルファベットから「オミクロン」を割り当てた。多くの国で感染急増につながれば医療システムが圧迫され、経済活動の再開や国境開放の取り組みを困難にしかねないと憂慮する声が聞かれている。世界の金融市場では26日、リスク回避の動きが強まった。
この変異株について現時点で分かっていることを以下にまとめた。
1.これまでの変異株との違いは?
科学者によると、オミクロンはウイルスが体の細胞に入る際に主要な役割を果たすスパイクタンパク質の変異の数が多い。ワクチンはこのタンパク質を標的にしている。従来の変異株よりも感染力と致死力が強いかどうかを研究者は突き止めようとしている。
2.発生源はどこか?
現在のところ臆測にとどまっている。英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)遺伝学研究所の科学者によれば、免疫不全の人の慢性感染の過程で進化したとみられ、治療を受けていないHIV感染者だった可能性がある。南アのHIV感染者は820万人と世界最多。南アで昨年特定されたベータ変異株もHIV感染者から広がった可能性が指摘されている。
3.どれだけ広がっているのか?
南アの大学2校で遺伝情報の配列解析機関を運営し、生物情報学を研究するトゥーリオ・デ・オリベイラ氏によれば、ヨハネスブルクが含まれる州で24日に報告された初期段階のPCR検査結果では、新規感染1100件のうち90%がこの新変異株だった。隣国ボツワナでは22日にワクチン接種済みの4人が感染したとの報告があった。香港では南アからの旅行者1人と、同じホテルの向かい側の部屋に隔離されていた別の1人から検出された。イスラエルでは最近マラウイに渡航した男性の感染を確認。ベルギーでも外国から入国した1人の感染が確認されている。
4.これまでの反応は?
新たな変異株に関するニュースは26日の金融市場を揺らした。世界株安となり旅行関連株が特に売られたほか、円高が進行した。英政府はアフリカ6カ国からの航空便を一時禁止すると発表。欧州連合(EU)加盟国でも同様の動きが広がりつつある。欧州疾病予防管理センター(ECDC)はオミクロンを「懸念すべき変異株(VOC)」に指定した。シンガポールは過去14日間に南アや周辺諸国に滞在歴のある人々の入国を制限。オーストラリアはアフリカ南部からの渡航者を対象とする入国規制強化を排除しないとした。インドは南アとボツワナ、香港からの旅行者の検疫を強化した。
U.K. Bans Some African Flights Over Virus Variant
英政府はアフリカ6カ国からの航空便を一時禁止すると発表
出所:ブルームバーグ
5.どれだけ懸念されるのか?
判断するのは時期尚早だ。WHOは同変異株は「従来の感染急増よりも速いペースで確認されており、増殖に強みを持っている可能性がある」と指摘。一方で、同変異株で分かっている全ゲノム配列は100未満であり、研究を行い既存のワクチンが効くかどうかを判断するには時間を要する。ウイルスは常に変異しており、弱まることもあれば、抗体を回避しヒトを感染させる力を強めることもある。
6.次の注目点は?
バイデン米大統領の首席医療顧問で米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は、オミクロンについてさらなる研究が必要との認識を示した。独ビオンテックは同社と米ファイザーによるワクチンがどう作用するかについて、2週間以内に最初の試験データを得られる見通しだとしている。
原題:What We Know About the Virus Variant Rocking Markets: QuickTake(抜粋)