[ニューヨーク 26日 ロイター] – 新型コロナウイルスが市場を大きく動かす要因として再浮上している。南アフリカで新たな変異株が確認されたからだ。

世界保健機関(WHO)は26日、南アで検出された新変異株「B.1.1.529」を「懸念される変異ウイルス(VOC)」に指定。「オミクロン株」と命名した。

新たな変異株への脅威は世界中の市場に衝撃を与え、S&P総合500種は9カ月ぶりの下げ率を記録した。感謝祭で休場だった25日の翌日で出来高が少なかったことも値動きを増幅させた可能性がある。

新たな変異株については、まだ情報が少なく、米金融市場に与える長期的な影響は不透明だ。ただ、感染が拡大している兆候がみられ、ワクチンへの耐性がどの程度あるのか不明なため、今年に入り度々、相場を押し上げてきた「経済再開」を材料視した取引にとっては、重荷になりそうだ。

また、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ対策で進める金融政策の正常化についても、見通しが複雑になる可能性がある。

「市場はパンデミック(世界的大流行)の終息を祝っていたが、まだ、終わっていない」ーーカンバーランド・アドバイザーズの会長兼最高投資責任者、デビッド・コトク氏はこう語る。

S&P総合500種は、2020年の春にかけ、新型コロナウイルスのパンデミック懸念で3割以上下落。その後、そこから2倍以上になっている。ただ、投資家が好む銘柄はその時々で大きく変わってきた。現時点で、同指数の今年の上昇率は22%程度。

今回、新たな変異株が検出されるまで、市場は、ワクチン普及や治療法の進歩により、新型コロナの影響を受けにくくなっていた。

米バンク・オブ・アメリカ(BofA)の最近のファンドマネジャー調査によると、市場の「テールリスク」の項目では、インフレや中央銀行の利上げが上位となり、新型コロナは5位までランクを落とした。

ところが26日の米株式市場では一転、ビデオ会議サービスのズーム・ビデオ・コミュニケーションズや動画配信サービス大手ネットフリックス、フィットネス機器販売のペロトン・インタラクティブなど、コロナ禍の需要の恩恵を受けて昨年買われた「巣ごもり銘柄」が上昇した。

一方で、今年に入ってから景気回復期待で上昇した銘柄は、新たな変異株への不安が高まれば、影響は避けられそうにない。エネルギーや金融、景気敏感株は大きく下げた。航空会社やホテルなどの旅行関連企業の多くも売られた。

米政府は26日、南アフリカで新型コロナウイルスの新変異株が検出されたことを受け、アフリカ南部からの渡航者の入国を制限する方針を発表した。

欧州でも英国に続きスペインやイタリアなどがアフリカの一部からの入国制限を発表するなど対応強化が相次いでいる。

こうした中、投資家の不安心理を示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX)は、3月初以来の水準に上昇した。投資家はさらなる市場変動に備えてポートフォリオをヘッジしようと躍起になっている。

フィナンシャル・エンハンスメント・グループのポートフォリオ・マネージャー、アンドリュー・スラッシャー氏は、アップル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなど、S&P総合500種の中で大きなウェイトを占める一握りのテクノロジー株の最近の上昇が、市場全体の弱さを覆い隠していると懸念していた。

同氏は「こうした状況で、売り方が市場を押し下げ、今回の新たな変異株のニュースが弱気マインドに火をつけたようだ」と指摘する。

他方で、一部の投資家は、今回の相場下落は、比較的低い水準で株式を買うチャンスではないかと受け止めている。急速な相場回復を期待したもので、実際、今年は何度かの下落を経ながらも、過去最高の水準まで上昇してきた。

スミード・キャピタル・マネジメントの創設者、ビル・スミード氏は、投資家向けメモで「これまで景気楽観論が打撃を受けたことは何度もあった。それらは、いずれも良い買い場だった」と述べている。

同氏が推奨した銘柄の中には、石油・ガス大手オキシデンタル・ペトロリアムと不動産投資信託(REIT)のマセリッチがあり、26日はそれぞれ7.2%、5.2%下げた。

量的緩和の縮小(テーパリング)を始めたばかりのFRBにとって、金融政策の正常化ペースを調整せざるを得なくなるのか、波乱要因のひとつとして、新たな変異株による経済不安が加わった。

短期金利の予想を示すフェデラル・ファンド(FF)金利先物は26日、早期利上げ観測が一転して後退したことを示した。

目先の注目材料は、30日のパウエルFRB議長とイエレン財務長官の議会証言、それに12月3日に発表される米雇用統計だ。

投資家らは、市場が安定することを期待している。クレッセット・キャピタル・マネジメントのチーフ・インベストメント・オフィサー、ジャック・アブリン氏は、感謝祭の休暇で多くの参加者が不在だった26日には流動性が不足しており、動きが誇張された、と話した。