岸田首相は22日、東京・内幸町の帝国ホテルで開かれた読売国際経済懇話会(YIES)で講演し、自ら掲げる「新しい資本主義」を官民協働で推進する考えを表明した。資本主義の弊害を是正する仕組みを成長・分配戦略として埋め込んだ「日本発の資本主義モデル」で「新しい時代の世界経済をリードする」と意欲を示した。

 成長と分配の好循環を目指す「新しい資本主義」は、首相肝いりの政策だ。首相は「様々な弱点を強みに変える成長戦略を官民協働で考えていく。これが市場任せではない新しい資本主義だ」と説明。対応が急務の気候変動やデジタル、経済安全保障分野で「政府が『方向性はこっちだ』と大きな市場を指し示し、多くの企業が投資することで分野を拡大する。結果として弱点を克服する」と訴えた。

 分配政策では、「給与、人への分配はコストでなく、未来への投資だ」と指摘した。国が決めることのできる保育士や介護職員の給与を引き上げることに触れ、「これを呼び水として、民間にも来年の春闘に向けて3%の給与引き上げをお願いする」と呼びかけた。

 こうした政策を進めることで、格差や分断、気候変動などの「資本主義が生み出した弊害にしっかりと向き合っていく」と述べた。

 外交・安全保障については、複雑化する21世紀の国際情勢に対応するため「新時代リアリズム外交」を推進すると表明した。対中国関係では「言うべきことは言うのは当然だが、少なくとも対話は維持していかなければいけない」と語った。

 ライフワークとする核軍縮に関しては、「NPT(核拡散防止条約)再検討会議を動かすことこそ現実的な核軍縮・不拡散への歩みだ」との見解を示した。来年1月に米ニューヨークで開かれる同会議に、林外相と寺田稔首相補佐官(核軍縮・不拡散問題担当)を派遣する方針だ。

 首相は、新型コロナウイルス対策について「水際対策は維持しながら、国内の感染封じ込め、感染拡大に対する備えをしっかり進めていく」と理解を求めた。「コロナ禍を乗り越えて新しい経済を起動させる」と強調したうえで、「来年夏の参院選を勝ち抜き、新たな時代を切り開く道筋を作っていきたい」と語った。

岸田首相の講演のポイント

▽「新しい資本主義」では資本主義の弊害を是正する仕組みを成長・分配戦略として埋め込む

▽気候変動やデジタルなど、弱点を強みに変える成長戦略を官民協働で考える

▽複雑化する21世紀の国際情勢に対応する「新時代リアリズム外交」を推進

▽NPT(核拡散防止条約)再検討会議を動かすことが、現実的な核軍縮・不拡散への歩みだ

▽新型コロナウイルスへの対処は、水際対策を維持し、国内の感染を封じ込め、感染拡大への備えを進める