【ロンドン=深沢亮爾】ウクライナに侵攻しているロシア軍が南東部の港湾都市マリウポリの完全制圧を目指す背景として、ウクライナ民族主義を掲げる武装組織「アゾフ大隊」の本拠地であることが指摘されている。ウクライナの民族主義を反ロシア的だとしてナチス・ドイツになぞらえるプーチン大統領にとって、アゾフ大隊の打倒は国内に「非ナチ化」を実現したと訴える「戦果」となる。
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アゾフ大隊は2014年にウクライナの親露派政権の崩壊につながった親米欧派の大規模デモに合わせ創設された。現在はウクライナの軍事機構に組み込まれ、ロシア軍と戦っている。
プーチン政権は、14年の政権交代を「クーデター」とみなし、アゾフ大隊も敵視する。
ウクライナを攻撃するロシア軍は、3月初めから人口約40万人のマリウポリを包囲し苛烈な「兵糧攻め」を続けている。このため人道危機が深刻化している。
米国の政策研究機関「戦争研究所」は11日、マリウポリ攻略は、ロシア軍のウクライナ侵攻作戦の総司令官に任命されたと報じられているアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将が指揮してきたと指摘した。
ウクライナ南部クリミアから東部の親露派武装集団の支配地域につながる「回廊」確保を目指すプーチン政権にとって、マリウポリ制圧は戦略的に重要だ。
一方、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は3月下旬のインタビューで、プーチン氏が「マリウポリが親露派に付かなかったことへの恨みを晴らそうとしている」と指摘した。ロシアが14年にクリミアを併合した後に勃発したウクライナの東部紛争で、マリウポリは親露派地域に入らなかった。このためプーチン氏はマリウポリに「懲罰」を科しているとの見方を示したものだ。
プーチン氏は5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日での「勝利宣言」に向け、国内向けの「戦果」が求められているとされる。マリウポリを制圧できれば「戦果」として強調できる。マリウポリの攻防は、ロシアの侵攻作戦全体の行方に影響する可能性がある。