ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いています。
ウクライナの各地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を続けていて、大勢の市民が国外へ避難しています。戦闘の状況や関係各国の外交などウクライナ情勢をめぐる29日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします。
(日本とウクライナ、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
キーウでジャーナリスト ビラ・ギリッチさんが死亡
ロイター通信などによりますと、ウクライナの首都キーウの集合住宅がある地域で起きた、ミサイル攻撃によるとみられる爆発で、アメリカ政府や議会が出資する「ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティー」のジャーナリスト、ビラ・ギリッチさんが29日、建物のがれきの下から亡くなっているのが見つかったということです。
ギリッチさんは、2018年からキーウで取材活動を続けていたということです。
米 OSCE担当「ロシア軍 一般市民を残虐に尋問の確かな情報」
アメリカ国務省によりますと、OSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構を担当するアメリカのカーペンター大使は28日、常設理事会でスピーチを行い、このなかで、「ロシア軍が一般市民を収容所に拘束し、ウクライナ政府や独立系メディアと関係していないか、残虐に尋問しているという確かな情報がある」と話しました。
具体的には、関係性を疑われた政治家やジャーナリスト、それに活動家などが暴行や拷問を受けたあと、親ロシア派が支配するドネツク地域に送られ、消息が分からなくなったり殺されたりしていると報告しました。
また、ウクライナの南部や東部のうちロシア軍が掌握を主張している地域で偽の住民投票の準備が進んでいて、なかでも、ロシア軍が「解放した」と主張する南部ヘルソン州でまもなく住民投票が行われる可能性があると指摘しました。
そのうえで、「ウクライナの人々はロシアによる侵攻を支持しないと明らかにしている。国際社会はロシアによる住民投票が決して正当化されないことを明確にしなければならない」と訴えました。
さらに、「こうした住民投票は間違いなく抵抗する人々に対する虐待をともなうだろう」と指摘し、今後、ロシア側による市民への暴行や拷問がさらに激しくなる可能性があるという見方を示しました。
ウクライナから国外に避難した人 537万人余りに
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシア軍の侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は、今月27日の時点で537万人余りとなっています。
主な避難先は、▽ポーランドがおよそ296万人、▽ルーマニアがおよそ80万人、▽ハンガリーがおよそ50万人、▽モルドバがおよそ43万人などとなっています。
また、▽ロシアに避難した人はおよそ64万人となっています。
ゼレンスキー大統領「米に感謝 支援不可欠」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、28日に公開した動画で「アメリカ国民、そしてバイデン大統領に感謝している」と謝意を示しました。
そして「決して安くはない金額だ。しかし、ロシアの攻撃がウクライナや民主主義にもたらす負の影響のほうが、世界にとってはるかに大きく、今回のアメリカの支援は不可欠だ。私たちは共にロシアの攻撃を確実に止めることができるし、ヨーロッパの自由を確実に守ることができる」と述べています。
ゼレンスキー大統領 キーウへのミサイル攻撃「国連を侮辱」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、28日に公開した動画で、国連のグテーレス事務総長との会談が行われた首都キーウに5発のミサイル攻撃があったと明らかにしました。
攻撃は、会談が終わった直後だったということで「ロシアが国連を侮辱していることを示しており、強い反応を示すことが必要だ」と主張しました。
また「事務総長がモスクワを訪問している最中にも、ロシアによるマリウポリへの砲撃は止まらなかった。全世界の目の前で行われているロシア軍の戦争犯罪だ」と非難しました。
グテーレス事務総長との会談については「世界の自由と安全を保障するためのすべてのものがロシアの攻撃的な行動により破壊されていて、それをどう止めるのかが主要な議題だった」と述べました。
そして「会談では、マリウポリの市民をどう救出するかについて、多くの時間を割いた。国連の助けによって、救出作戦を整えることができるはずだ。ウクライナ側はもう準備はできており、ロシア側が実際に行動することが必要だ」と指摘しました。
首都キーウで爆発 ミサイル攻撃か 10人がけが
国連のグテーレス事務総長が訪れていたウクライナの首都キーウの集合住宅がある地域で28日夜、ミサイル攻撃によるものとみられる爆発がありました。
現場からの映像には建物の内部から炎が激しくのぼっている様子が写っています。
また、建物の外壁が大きく崩れている様子や多くの窓ガラスが割れている様子なども確認できます。
現場には消防車や救急車が次々と到着し、住民などがけが人を運んでいました。
ウクライナ当局によりますとこの爆発で合わせて10人がけがをしたということです。
国連報道官「マリウポリ市民の避難協議 極めて複雑」
国連のグテーレス事務総長とともにウクライナの首都キーウを訪れているデュジャリック報道官は、NHKのインタビューに応じ、東部のマリウポリで取り残されているとみられる市民の避難について、「国連やICRC=赤十字国際委員会それにロシア政府などによる協議は極めて複雑だ」と述べ、実現のためには多くの課題があるという認識を示しました。
そのうえで、「一歩ずつ進めていかなければならず、奇跡のような解決策はない。解決策は、結局は、戦闘が止むことだ。この戦争は、ロシアがやめると決めれば終わる」と述べ、ロシアに改めて侵攻をやめるよう求めました。
一方で、キーウでは28日夜、ミサイルによるものとみられる爆発が2回にわたってありましたが、そのときの状況について、デュジャリック報道官は「グテーレス事務総長はウクライナ首相府で首相との会談を行っていた。外にいた同僚の中には爆発音を聞いた者もいた。誰でもそうだが、事務総長も衝撃を受けていた。しかし、動揺はしていない」と述べました。
そのうえで、「事務総長が標的だったとは思わないが、タイミングには確かに戸惑っている。いずれにしても、民間人や民間の施設に対する攻撃は戦争犯罪であり非難する」と述べました。
国連の関係者によりますと、攻撃があったあと、安全を確認するため、グテーレス事務総長は首相府に数時間にわたって足止めされました。
米国防総省高官「ロシアがマリウポリ掌握したとは考えていない」
アメリカ国防総省の高官は28日ウクライナ東部でのロシア軍の地上部隊の動きについて「むらがありながらも、徐々に前進していると分析している」と述べました。
この高官によりますと、ロシア軍の部隊は、東部ハルキウ州のイジュームから南に向けてやや前進したものの、ウクライナ側の抵抗が続いているということです。
また、ロシア軍が作戦に必要な物資を維持するのに依然として課題を抱えていると指摘し、地上部隊の移動が制限されているという見方を明らかにしました。
ロシア軍が、当初、首都キーウに向けた侵攻で直面したような物資の不足に陥らないよう警戒しているとしたうえで、前線の部隊への補給ルートを維持するため、1日に数キロ程度しか前進できないと指摘しています。
さらに、ウクライナ東部での攻防は、ロシア側とウクライナ側、双方とも一進一退の状況が続いているとしています。
一方、この高官は、東部の要衝、マリウポリの周辺に展開していたロシア軍の地上部隊がこの場所を離れ、ザポリージャ州がある北西方向に移動し始めているのを確認したと明らかにしました。
マリウポリから移動している部隊の具体的な規模はわからないとしながらも「かなりの部隊が離れ始めている」としています。
ただ、この高官は、ロシア軍が今もマリウポリに対して空爆やミサイル攻撃を続けていると指摘し「ロシアがマリウポリを掌握したとは考えていない」と述べました。
一方、この高官によりますと、ロシア軍は引き続き地上部隊の投入を続けていて、ウクライナ国内では1週間前と比べて7つ多い92の部隊が展開しているのが確認されたということです。
アメリカ国防総省はこれまでに、ロシア軍の1つの部隊が800人から1000人の兵士で構成されていると説明していて、この1週間で合わせておよそ5600人から7000人が投入された計算になります。
さらに、ウクライナ国外では、今も20余りの部隊が戦闘に投入されず、再編成が行われていると指摘しました。
またこの高官は、アメリカが供与した移動式レーダーシステムと兵士を輸送する装甲車に関するウクライナ軍への訓練を、ウクライナ国外で行っていることを新たに明らかにしました。
“住民投票 5月14日と15日か” ロシア側の苦戦で遅れる可能性も
ウクライナ東部にあるドネツク州とルハンシク州で一部地域を事実上支配する親ロシア派の武装勢力が一方的に実施する意向を示しているロシアへの編入の賛否を問う住民投票について、ロシアの独立系ネットメディアの「メドゥーザ」は27日、ロシア大統領府に近い複数の情報筋の話として5月14日と15日に行われる可能性があると伝えました。またロシア側が掌握したと主張する南部ヘルソンでも、同じ日にウクライナからの独立の賛否を問う住民投票が準備されているとしています。
住民投票は当初4月下旬に予定されていたものの、軍事作戦でのロシア側の苦戦により数回延期され、同じ理由で今後もさらに遅れる可能性があると指摘しています。
「メドゥーザ」はヘルソンについて住民投票のあとに一方的に独立を宣言させたあと、将来的にはロシアが併合に向けて動く可能性もあるとしています。
「メドゥーザ」は情報筋の話として、これらの地域の併合は「プーチン大統領の個人的な願望だ」としていて、プーチン大統領がこうした地域のロシアへの併合に強い執着心を持って臨んでいるという見方を示しています。
ウクライナでは南部のクリミアでも8年前、ロシアによる軍事力を背景に一方的に住民投票が行われ、プーチン大統領はその結果を根拠に併合の正当性を主張しています。今回も住民投票を名目にしてロシアの支配の既成事実化を強めようとしているとみられますが、実際に投票が行われる時期は戦況に左右されるという見方が出ています。
ドイツ議会 大型兵器の供与など求める動議を可決
ドイツの連邦議会は28日、政府に対してウクライナへの軍事支援として大型兵器の供与などを求める動議を賛成多数で可決しました。
ウクライナで市民への深刻な被害が次々と明らかになる中、ドイツでは与野党の一部議員から戦車などの強力な兵器を送るべきだとの声が上がっています。今回、与党と一部の野党が共同で提出した動議では具体的な兵器には言及していませんが戦車などを想定しているとみられ、過半数を大きく上回る586人が賛成しました。
ドイツは今月26日にアメリカの主導で行われたウクライナへの軍事支援などを協議する会合で新たに自走式の対空砲の供与を発表するなど、軍事侵攻の前は慎重だった兵器の供与を進めています。
一方で第2次世界大戦の反省から平和主義を重んじてきたドイツでは武器の供与に慎重な意見もあり、ショルツ首相が実際に戦車などの供与に踏み切るかは不透明です。
また今回の動議はロシア寄りの態度を示す中国が▽西側諸国のロシアへの制裁の効果を弱める行為や▽ロシアへの武器の供与を行った場合は制裁を科すことなど、政府に断固とした対応を示すよう求めています。
避難者の生活基盤の確立へセミナー開催 ポーランドの大学
ロシアの軍事侵攻から2か月がすぎ、ポーランドではウクライナから避難してきた人たちの避難生活が長期化しています。生活基盤の確立が課題となる中、ポーランド南東部のジェシュフの大学では避難者を対象とした就職支援のためのセミナーが開かれています。
この日は大学の担当者がポーランド語での履歴書の書き方についてウクライナ語の通訳を交えて解説していました。
また銀行の担当者が出張して質問に応じるコーナーでは口座開設の申込書の書き方を教えたり、手数料が無料になる避難者を対象にしたサービスがあることなどを説明したりしていました。
リビウから避難してきた女性は「すばらしい取り組みです。口座開設の申し込みや子どもの教育に必要な金銭的な支援をどのように受ければよいか教わりました」と話していました。
支援を担当する大学職員のミコラ・ボローニンさんは「ウクライナに戻る人がいる一方、多くの人がポーランドで生活することになると思われることから、こうした支援を始めた」と話していました。
キーウ近郊に仮設の市場
ロシア軍による激しい攻撃を受けた首都キーウ近郊のボロジャンカでは28日、町の中心部に食料品などを売る仮設の市場が設けられました。
ボロジャンカはロシア軍による激しい攻撃を受け、至るところで集合住宅などの建物が破壊され、ロシア軍が撤退したあと多くの市民が遺体で見つかりました。
電気や水道などインフラも大きな被害を受け商店のほとんどが閉まったままで28日、町の中心部には食料品や生活用品を売るテントが並び仮設の市場が設けられました。市場ではソーセージなどの肉製品や魚のくん製、それにめがねなども販売され地元の人たちが列を作って買い求めていました。
IAEA “原発の上空をミサイルが横切る”と連絡受けた
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は28日、声明を発表し、ウクライナの当局から、南部にある南ウクライナ原子力発電所でミサイルが原発の上空を横切る映像を監視カメラが記録したと連絡を受けたことを明らかにしました。今月16日に撮影されたものだとしています。
声明ではウクライナ側からの情報を確認中だとして、ミサイルがロシア軍のものなのかや原発のどれくらい上空を飛行したのかなど詳しい内容は明らかにしていません。そのうえでグロッシ事務局長は「事実だとすれば極めて重大なことだ。南ウクライナ原発に深刻な損害を与え、事故につながったかもしれない」と懸念を示しています。
アゾフ大隊 “アゾフスターリ製鉄所にある野戦病院” 映像公開
東部の要衝マリウポリで戦闘を続けるウクライナの「アゾフ大隊」は28日、拠点としているアゾフスターリ製鉄所にある野戦病院だとする映像を公開しました。
映像では薄暗い部屋に多くの人たちがひしめき合っていて、震える手でペットボトルを持つ男性や、赤や黄色のライトが照らされる中でけがをした人の様子を確認する女性の姿などが撮影されています。
アゾフ大隊はSNSで映像とともにコメントを投稿し「ロシア軍はアゾフスターリ製鉄所内にある野戦病院に一晩中、爆弾を大量に投下し、すでにけがをしていた兵士が死亡したり、新たなけが人が出たりした。攻撃によって一部の部屋は壊れ、特に手術室は以前のようには使えなくなっている。けが人や病人は民間人か兵士かにかかわらず保護されなければならない」として、深刻な状況を伝えるとともに人権を守るための対応をとるよう国際機関に求めました。
ウクライナ 少なくとも2829人の市民死亡 うち205人は子ども
国連人権高等弁務官事務所はロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から4月27日までに、ウクライナで少なくとも2829人の市民が死亡したと発表しました。このうち205人は子どもだとしています。
地域別でみると、キーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで1475人、東部のドネツク州とルハンシク州で1354人の死亡が確認されているということです。またけがをした市民は3180人にのぼるとしています。
一方、国連人権高等弁務官事務所は、東部のマリウポリなど激しい攻撃を受けている地域での死傷者の数については集計が遅れていたり、確認がまだ取れていなかったりして統計には含まれておらず、実際の死傷者の数はこれを大きく上回るとの見方を示しています。