[東京 7日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は7日の参院財政金融委員会(半期報告)で、「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言して波紋が広がった6日の講演の釈明に追われた。アンケート調査やコロナ禍で蓄積した強制貯蓄をもとに「家計の値上げに対する対応が変化している可能性について言及したものだ」とする一方、「必ずしも適切な言い方ではなかった」と述べた。

為替については、安定的な円安は日本経済にプラスとの見解を維持しつつも、家計や地方の中小サービス業にはマイナスだと指摘した。

<値上げ許容度発言、「100%正しいか若干ためらう」>

黒田総裁は6日の講演で「企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきているのは、持続的な物価上昇の実現を目指す観点からは重要な変化だ」などと指摘した。

この発言について、黒田総裁は「家計を対象とするアンケートの調査結果やコロナ禍での行動制約下で蓄積した強制貯蓄を踏まえ、家計の値上げに対する対応が変化している可能性について言及したものだ」と説明した。

講演では、東京大学の渡辺努教授が日本など5カ国を対象に定期的に実施している「馴染みの店で馴染みの商品の値段が10%上がったときにどうするか」という問いに対する家計の調査を引用したが、「アンケート調査に対する考え方として値上げ許容度という言い方が適切か、いろいろな議論があると思うが、(調査は)1つの有力なアンケート調査だ」と釈明した。

一方で、前日の講演内容が100%正しいか若干ためらうものがあるとも話した。ベアによる雇用者総所得の増大で値上げ許容度が上昇しているとの別の調査結果も紹介し、「1つの統計を強調しすぎたかもしれない」と振り返った。

黒田総裁は「必ずしも適切な言い方でなかった」と述べ、家計の所得環境や体感物価、マインドの動向を丹念に点検し、政策運営に生かしていくと話した。

<「安定的な円安は経済にプラス」>

外為市場では再び円安傾向が強まり、約20年ぶり円安水準の1ドル=132円半ばで推移している。黒田総裁は「為替は急激な変動でなく、安定的に円安方向に推移すれば日本経済に全体としてプラス」との見解を維持した。さまざまなマクロ経済モデルでもプラスとの試算が出てくるとも付け加えた。

同時に円安の影響は業種や企業規模により不均一とも指摘、家計の実質所得にはマイナスなどと取り上げ、今後の為替の動向を慎重に注視する姿勢を示した。

金融政策運営については「金融緩和を拙速に縮小してしまうと設備投資などの国内需要に一段と下押し圧力がかかり、物価目標の持続的・安定的な実現から遠ざかってしまうのではないか」と述べ、金融緩和を粘り強く継続する方針を改めて強調した。

財政政策については「財政に対する信頼が失われて国債金利が上昇すれば、金融政策としても非常にやりにくくなる」と述べ、財政の持続可能性を高めておく必要があると語った。

(和田崇彦、竹本能文 編集:内田慎一、青山敦子)