[フランクフルト/アムステルダム 9日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は9日、量的緩和措置である資産購入プログラム(APP)を7月1日に終了すると表明するとともに、7月から利上げを開始する方針を示した。また、インフレが鎮静化しなければ、9月に大幅な利上げを行う意向も示した。 

ユーロ圏では急激な物価高が進む。5月の消費者物価指数(HICP)速報値は前年同月比8.1%上昇と過去最高を更新した。

ECBは声明で「7月理事会で政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げる意向」と表明。「9月に再び引き上げると予想する」とし「中期的インフレ見通しが変わらないか悪化すれば、9月理事会でより大幅な引き上げが適切になる」と述べた。

今回、主要政策金利をゼロ%に中銀預金金利をマイナス0.5%に据え置いた。ラガルド総裁は中銀預金金利を9月末までにゼロか「ゼロをわずかに上回る」水準にする考えを示している。

中銀預金金利は2014年からマイナス圏。ECBが利上げを実施すれば、11年以来となる。

<インフレ予測次第で大幅利上げも>

ラガルド総裁は会見で「インフレ率を中期的に2%の目標に戻す」とし、それはやや長い道のりだと語った。

それを裏付けるように、ECBはインフレ見通しを再び上方修正した。今年の予想は前回予想の5.1%から今回は6.8%に引き上げ。2023年のインフレ率は3.5%、2024年は2.1%とした。4年連続でインフレ率が目標を上回ることになる。

ラガルド総裁は、この水準は高すぎるとし、9月のECBインフレ予測でも同様の見通しが示されれば、利上げペースを加速させる必要があると指摘。「2024年、もしくはそれ以降のインフレ率見通しが2.1%になった場合、利上げ幅の調整は拡大するだろうか。答えはイエスだ」と述べた。

ECBが50bpの幅の利上げを実施すれば、一回の利上げ幅としては2000年6月以来、最大となる。

ただラガルド氏は「不確実性が高いときは、段階的なアプローチが適切になる」と指摘。利上げを確約しながらも、過去に債務危機に見舞われた国の借入コストが再び乱高下することがないよう留意すると述べた。

<ECBは後手に回っているか>

ECBの声明は、「理事会は、緩やかだが持続的な追加利上げの経路が適切とみている。高インフレはわれわれ全員にとって大きな課題である」とした。

声明を受けて、市場は年内の利上げ幅を143ベーシスポイントと予想。発表前の138ベーシスポイントから拡大した。これは7月以降の全会合での利上げを予想するとともに、うち数回は25bpを上回る利上げが行われることを織り込んでいる。また、2023年末までに預金金利を合計230bp引き上げ、金利のピークを2%に近づけると予想している。

数カ月前には年内利上げを否定していたラガルド総裁は、この日の会見で厳しい立場に立たされた。しかし同総裁は躊躇せず、ECBが今後の会合で徐々に利上げを行う予定であることを繰り返し強調した。

ノルデアは顧客向けノートで「ECBがタカ派的なシグナルを発していることを踏まえると、7月の25bpの利上げに続き、9月と10月に50bpの利上げが実施されると予想している」とし、「その後は減速し、12月の利上げ幅は25bpになる公算が大きい」とした。

一部エコノミストは、ECBはインフレ抑制で後手に回ったため、金利を中立水準まで引き上げるだけでは十分ではないと指摘。コメルツバンクのチーフエコノミスト、イェルク・クレーマー氏は「ECBはアクセルから足を離すだけでは十分でなく、ブレーキを踏まなければならない。ただ、ECBはその準備ができていないため、インフレ率は2%を大きく上回り続けると予想している」と述べた。

ピクテのストラテジスト、フレデリック・デュクロゼ氏は「向こう数カ月でユーロ圏のコアインフレ率はさらに上昇すると予想している」とし、「ECBは7月に25bpの利上げし、9月に50bpの利上げを行う」と予想。「その後は利上げ幅を通常の25bpに戻すと見ているが、10月と12月にも利上げすると予想している。コアインフレ率が大幅に緩和しない限り、50bpの幅での利上げの可能性は排除できない」と述べた。

<利回り格差拡大への対処>

今回の理事会では、ユーロ加盟国間の借り入れコストの格差についても討議。関係筋によると、当局者の大多数が、国債利回りの格差を抑制するための新たな債券買い入れ策を発表する必要はないとの見方を示した。

関係筋は、この件に関する議論は4月のセミナー以降進展しておらず、討議は9月まで再開されないとしている。

関係筋によると、今回の理事会で一部当局者が7月に50bpの利上げを実施することも提案した。

ECBの次回理事会は7月21日。その後は9月8日に理事会を開く。