[パリ/ベルリン/ワシントン 13日 ロイター] – ロシアのウクライナ侵攻後すぐにウクライナ支援に動いた欧米諸国の結束が試練に直面している。戦争が始まって3カ月が経過した今、この先の方針を巡って足並みの乱れが見えるからだ。 

ロイターが政府高官や外交当局者の話を聞いた結果、「ロシアのプーチン大統領と対話を続けるのと孤立させるのはどちらが得策か」「ウクライナは戦争終結のため譲歩すべきか」「自国の人々に痛みを背負わせてまで対ロシア制裁を続けるのか」といった問題で、各国に「温度差」があることが分かった。

欧米は物価全般とエネルギー価格の高騰への対応に苦戦を強いられており、イタリアやハンガリーなどの一部諸国は早期停戦を要望している。これが実現すれば、対ロシア制裁は緩和され、貧困国で悪化している食料危機の原因になったロシア軍によるウクライナの港湾封鎖も解除される可能性がある。

しかしウクライナやポーランド、バルト諸国はロシアなど信用できないと訴え、ここで停戦すればロシアが戦争で獲得した地域の支配を固め、軍を再編して新たな攻撃を始めるのを許すだけだと主張している。

ウクライナ政府高官の1人はロイターに、ロシア側は「今のままなら消耗戦となる以上、われわれは交渉の場を設けて合意を模索すべきだ」という考え方を意図的に拡散させていると述べた。

米国はどうか。オースティン国防長官はロシアの「弱体化」を望むと発言。バイデン大統領は、プーチン氏は戦争犯罪で訴追されるべきだと唱えている。また英国のジョンソン首相も、ウクライナに「悪い平和」を強制してはならず、ウクライナは「勝利しなければならない」と強硬姿勢だ。

一方ドイツとフランスはよりあいまいな立場を維持し、ロシアに新たな厳しい制裁を科すのを支持しつつ、プーチン氏を打倒するよりも同氏が勝つのを阻止するつもりだと表明。フランスのマクロン大統領側近の1人はロイターに「問われているのは冷戦時代に戻るかどうかで、バイデン氏やジョンソン氏とわれわれの差はそこにある」と説明した。

今後ロシアに対する各種制裁が世界経済に影を落とし、欧米諸国の国内からの反発が強まってプーチン氏がそこにつけ込む恐れがあるため、こうした各国の亀裂がさらに鮮明化してもおかしくない。

エストニアのカラス首相はCNNのインタビューで「時間が経過するほど事態が難しくなることは最初からはっきりしていた。戦争疲れが姿を現しつつある」と語り、バルト諸国と、もっと近隣国に恵まれた国、あるいはバルト諸国と違う歴史を持つ国の間には思惑の違いがあるかもしれないとの見方を示した。

<マクロン発言の波紋>

マクロン氏は、いかなる和平であっても、第1次世界大戦を起こしたドイツに対して1918年に与えたような「屈辱」をロシアに味わわせてはならないと警告している。

ロシアに対してより強硬な姿勢を見せる国が驚いているのは、マクロン氏とドイツのショルツ首相がプーチン氏との対話の窓口を開いたままにしている点だ。ポーランドの大統領は、まるで第2次世界大戦中にナチスのヒトラー総統と電話でやり取りするのと同じだと厳しい目を向ける。

しかし先のマクロン氏側近は「われわれはどこかの時点で、ロシアで『宮廷クーデター』でも起きない限りはプーチン氏と何らかの合意に達しなければならない。戦争をできるだけ短期で終わらせる必要がある以上、なおさら不可欠だ」と反論した。

ショルツ氏は、自分とマクロン氏はあくまで確固とした明確なメッセージを伝えるためにプーチン氏と電話していると述べ、プーチン氏が軍を引き揚げ、ウクライナが受け入れ可能な和平に合意しないうちは制裁を発動し続けると強調した。

もっともショルツ氏の外交チームの1人はロイターに、マクロン氏の言葉遣いは「穏当ではない」と苦言を呈した。フランスの複数の外交当局者も非公式の場で、マクロン氏の姿勢はウクライナと東欧諸国にそっぽを向かれる恐れがあると懸念を表明した。

ウクライナ政府は、欧米側の支援に感謝しながらも、停戦合意のためには領土の面で譲歩すべきだとの意見があることに苛立ちを隠さず、対ロシアで欧米は適切に団結しているのかと疑問を投げかける場面も見られる。

ロシアに屈辱を与えるなというマクロン氏の警告について、ウクライナのクレバ外相からは、フランスは自分たちを辱めているだけだと反発する声が出ている。あるウクライナ政府高官は、第2次世界大戦中に首相として英国を1つにまとめたウィンストン・チャーチルを引き合いに出した上で、「欧州連合(EU)の中にチャーチルはいない。それに関してわれわれは何の幻想も抱いていない」と冷ややかに話した。

フランス大統領府高官の1人は、マクロン氏の発言にプーチン氏やロシアへの譲歩という精神は1つもなく、フランスが望むのはウクライナの勝利と領土回復だと弁明し、プーチン氏との対話はこちら側の意見を言うためであって決して妥協が目的ではないと付け加えた。

バイデン政権のある高官は、ロシアが誠意を持って行動するかどうか米国は懐疑的な見解をより声高に訴えてきたとしつつも、同盟国の間に「戦略的な違い」はないと言い切った。

米国務省の報道官はロイターに、米国は同盟諸国と対ロシア制裁や武器供与、その他手段を通じてウクライナのために歩調をそろえて行動してきたと説明し、その目的は交渉の場でウクライナの立場を強くすることだと主張した。

<弱体化の意味>

オースティン国防長官の発言を巡り、先のバイデン政権高官は、米政府にロシア体制変更の意図はないが、ロシアが二度とウクライナに侵攻できなくなるほど弱くなるのが好ましいという考えだと解説する。同高官によると、誰もが「弱体化」の部分だけに着目し、ロシアがこのような侵攻が不可能になるまでという「弱さの程度」への言及に目を向けなかったのだという。

それでもドイツ政府関係者の1人は、オースティン氏が目指すロシアの弱体化は問題含みだと警戒感を示した。さらに同国のベーアボック外相がオースティン氏の狙いに賛成したのは残念だと語り、その理由として弱体化を推進するなら、ウクライナが和平に合意するかどうかに関係なく制裁をいつ解除すべきか分からなくなることを挙げた。

また複数のドイツ政府関係者が懸念しているのは、例えば2014年にロシアが強制編入したクリミア半島奪回など、ウクライナに現実味の薄い目標を達成するようそそのかす動きが欧米の一部から出てくるのではないかという点だ。

一方ウクライナの駐独大使は、ドイツ政府がウクライナ支援の実績を強く主張しているにもかかわらず、実際にはウクライナに大型で強力な兵器をなかなか提供してくれないと繰り返し批判している。

ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問もこうした煮え切らない姿勢に不満を表明し、「そんな政策では民主主義社会に待ち受ける最悪事態は単なる物価上昇ではなくなる」と警鐘を鳴らした。

(John Irish記者、Andreas Rinke記者、Humeyra Pamuk記者)