[22日 ロイター] – パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は22日、上院銀行委員会の公聴会で、FRBは40年ぶりの高水準で推移するインフレを引き下げることに「強くコミット」しており、「そのために迅速に」行動しているとの見解を示した。インフレ阻止のために景気後退を誘発しようとしているのではなく、景気後退リスクがあっても物価抑制に全力を傾けているとした。

パウエル氏は、ここ数カ月の出来事により景気後退を回避しつつインフレを抑制することがより困難になっていることを認め、景気後退は「確かにあり得る」と明言。ただ「FRBは景気後退を誘発しようとはしておらず、その必要があるとも思わない」とも述べた。

また銀行委員会のメンバーから、一度に100ベーシスポイント(bp)の利上げを行う可能性があるかと問われ、インフレ抑制に取り組む上で正当化されればいかなる選択肢も排除することはないと回答。その可能性を否定しなかった。

パウエル氏は「全ての人に恩恵をもたらす強い労働市場の状況を持続させるためにはインフレ率を引き下げることが不可欠だ」と表明。「FRBの目的は、労働市場が堅調なうちにインフレ率を2%まで低下させることだ。ただ、その可否を決定する上で、われわれがコントロールできない多くの要因が非常に重要な役割を果たすことが判明しつつある」とし、達成に向けた道筋はあるが、それは一段と困難になっていると述べた。

政策金利の継続的な引き上げは適切だとし、利上げペースについては「今後のデータと経済の進展する見通しに引き続き左右される」と繰り返した。その上で、「インフレは明らかに過去1年間で驚くほど上昇した。一段のサプライズが待ち受けているかもしれない」とも指摘。政策立案者は今後の指標と刻々と変化する見通しに対応するため「機敏」である必要があるとし、今後数カ月、物価上昇圧力が緩和したかどうか「説得力のある証拠」を探すことになるとした。

パウエル氏によると、入手可能な5月のデータでは、コア個人消費支出(PCE)価格指数は4月の前年同月比4.9%上昇のペースを維持するか、わずかに緩和した可能性がある。4─6月期の実質国内総生産(GDP)は拡大し、個人消費も引き続き堅調という。

一方、企業の設備投資は減速しており、住宅部門もローン金利の上昇を受けて軟化しているもようとした。

また労働需要は「非常に強く」、労働供給は抑制され労働参加率は1月以来ほとんど変化が見られていないとした。

その上で、これまでの措置と今後予想される措置の両方を反映し、金融情勢は「著しく」引き締まったと指摘。金融引き締めは、引き続き成長を抑制し、需要と供給のバランスを取るのに寄与するとした。

パウエル氏の証言は、2月にFRBが議会向けの半期金融政策報告を提出して以降3カ月間に、インフレを巡る状況がいかに変化したかを示すものとなった。

当時、6%に達したインフレ率は「年内に低下すると予想される」としていた。今年に入り150bpの利上げを行ったにもかかわらず、インフレ低下の兆候はほとんど見られていない。

パウエル氏は「米経済は非常に力強く、金融引き締めに対応できる態勢が整っている」としたが、FRBの急速な利上げ路線により景気後退と労働市場の弱体化に対する懸念は拡大している。

インフレ問題が焦点となる11月の中間選挙を控える中、証言ではパウエル氏に対し与野党双方から多くの批判の声が上がった。

エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)は、何百万人もの失業者を出しかねない景気後退のリスクを高めるような利上げを強行したとしてFRBを糾弾。トム・ティリス上院議員(共和党、ノースカロライナ州)も、従来からよく知られている金融政策ルールに従えば利上げが可能だったにもかかわらず、FRBは早期に行わなかったと非難した。

これに対しパウエル氏はFRBは政策ルールを「大々的に使ったことはない」と回答。「FRBは景気後退を誘発しようとはしておらず、その必要があるとも思わない」と述べた。

フェデラルファンド(FF)金利先物はパウエル氏の発言を受けて上昇し、年内残り4回のFOMCでの大幅な追加利上げ観測が一部緩和された。

CMEグループのフェドウオッチによると、市場では、7月FOMCでは依然として75bpの追加利上げが最有力とされているが、9月の利上げ幅は50bpとの見方が強まった。