[東京 1日 ロイター] – 猛暑で電力不足に直面する日本が、石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を巡るロシアの新たな方針に揺さぶられている。権益を維持するには改めてロシアに申請する必要があり、ウクライナ情勢を巡って西側諸国が結束する中、冬に一段と電力切迫する恐れがある日本にとっては踏み絵となりかねない。 

ロシアの突然の方針が伝わった1日午前、日本の関係者は情報の確認に追われた。サハリン2をエネルギー安全保障上の重要な権益とみなす日本政府、実際に権益を持つ三井物産と三菱商事はいずれも大統領令の内容を確認中とコメントした。

ロシアのプーチン大統領は30日、サハリン2の権益などを引き継ぐ新たな事業体を設立する大統領令に署名した。国営ガス大手のガスプロムは権益を維持できる一方、他の出資者はロシア政府に対して1カ月以内に改めて権益の承認を申請する必要がある。認められれば権益を保有し続けられるとしている。詳しい条件は明らかになっていない。

折しも日本は猛暑続きで電力不足に直面している最中。経済界から「どうしてもっと早いアクションを取らなかったのか」(経済同友会の桜田謙悟代表幹事)と声が出るなど、電力の需給逼迫が7月10日の参議院選挙を前に社会問題化しつつあった。首相に近い政府関係者は「猛暑による電力逼迫、物価高による内閣支持率の低下、しかも参院選の投票直前というタイミングを狙って、ロシアは日本がどこまでG7(主要7カ国)と足並みを揃えられるのか試しに来ているのだろう」と分析する。

日本が輸入する液化天然ガス(LNG)の約9%がサハリン2からのもの。市場で調達するよりも安価なため、仮に権益をあきらめれば調達価格が上昇する。そもそもウクライナ危機で世界的にLNGが不足する中、代替できるかどうかも分からない。資源エネルギー庁の幹部は、「代替LNGを市場で調達すると数兆円の追加負担が発生する」と説明する。今年の冬は一段と電力需給が厳しくなる見込みで、「来年まで電力需給は綱渡り。冬はサハリン頼みだ」と、経産省幹部は言う。

G7各国と協調してロシアに経済制裁を科す日本は、ことサハリンのエネルギー事業については自国の利益を優先してきた。萩生田光一経産相は中国を念頭に、権益を手放せば第三国の手に渡るなどと述べ、堅持する方針を繰り返して強調してきた。ロシアの新たな方針が伝わった後も、資源エネルギー庁内では「サハリンから調達できない最悪の場合は常に想定しているもの、撤退しない方針は変わらない」(前出の幹部)との声が聞かれた。

しかし、継続して権益を維持するのと、ロシア側に申請しなおすのとでは日本の姿勢が対外的に異なって映る可能性がある。ロシアがウクライナ東部で攻勢を強め、首都キーウや港湾都市オデーサをミサイルで攻撃したというニュースが世界に広がる中で、「改めてロシアと契約させる踏み絵だ」と、サハリン2の事業に詳しいエネルギー業界関係者は指摘する。日本は「ロシア寄りと見られるリスクがある」と、同関係者は言う。

サハリン2の権益12.5%を持つ三井物産はこの日、株価が前日比5.51%下落。10%を持つ三菱商事は同5.38%下落した。

27.5%の権益を保有する英シェルは2月に撤退を発表したが、まだ売却先は決まっていない。ロイターは5月、権益の売却に向けインドの企業連合と交渉中と報じた。

(竹本能文、大林優香 編集:久保信博)