安倍晋三元首相(67)が奈良市内で参院選の街頭演説中に銃撃されて死亡した事件で、元海上自衛官で無職の山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=の自宅から押収されたノートに、母親が入信する宗教団体への恨みが記述されていたことが捜査関係者への取材で明らかになった。山上容疑者は岸信介元首相(故人)の名前を挙げ、「家庭を壊した団体を日本に招いたのが岸氏で、その孫の安倍氏を狙った」と供述していることも判明した。
奈良県警は安倍氏側と団体とのつながりが深いと思い込み、一方的に敵視していた疑いが強いとみている。
この宗教団体は海外が発祥で、国内にも多くの信徒を抱えているとされる。団体によると、山上容疑者の母親も入信している。国内外の政治家と関係を築いているとの指摘もある。
捜査関係者によると、山上容疑者は「母親が団体に多額の献金をして破産した。家庭を崩壊させた団体に恨みがあった」と説明。「団体を日本に入れたのは岸氏。孫の安倍氏も国内で広めたと思い込んで狙うようになった」と供述しているという。岸氏は安倍氏の母方の祖父にあたり、1987年に死去している。
県警は事件当日の8日、山上容疑者宅を家宅捜索した際、手製とみられる拳銃5丁のほか、ノートやパソコンなど計数十点を押収した。このノートに団体への恨みが記述されていたことが確認された。山上容疑者が自ら記した可能性が高い。県警は山上容疑者の動機を裏付ける物証とみて記載内容を精査している。
山上容疑者は「団体トップを襲撃する計画も立てていたがうまくいかず、狙いを安倍氏に切り替えた」と話していることも分かっている。
県警によると、山上容疑者は8日午前11時半ごろ、近鉄大和西大寺駅周辺で街頭演説中だった安倍氏を背後から手製の拳銃(長さ40センチ)で銃撃したとして、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。
安倍氏は同日午後5時3分、救急搬送された奈良県立医科大付属病院で死亡が確認された。死因は失血死で、左上腕部を撃たれて左右の鎖骨下にある動脈を損傷していた。県警は山上容疑者の容疑を殺人に切り替え、事件の全容解明を進めている。【吉川雄飛、林みづき、川畑岳志】