中国軍は4日、台湾を取り囲むように大規模な演習を始め、台湾の周辺海域に向けて弾道ミサイルを発射しました。
弾道ミサイルの一部は日本のEEZ=排他的経済水域の内側に落下しましたが、中国側は「両国は関連海域で境界を画定しておらず、演習区域に日本のEEZが含まれるという見解は存在しない」と主張しています。
中国軍は4日、台湾を取り囲むように合わせて6か所の海域と空域で「重要軍事演習」を始め、台湾東部の海域に向けて複数のミサイルを発射したほか、台湾海峡に向けて長距離の実弾射撃演習を行ったと発表しました。
これについて、台湾国防部は、中国軍が4日、台湾の北部や南部、それに東部の周辺海域に向けて11発の弾道ミサイルを発射したと発表しました。
日本政府は発射された弾道ミサイルのうち、5発が日本のEEZの内側に落下したと推定されるとして中国側に抗議しました。
日本側の抗議に対し、これまでのところ中国政府の公式な反応はありませんが、日本側が演習区域に日本のEEZが含まれているとして懸念を伝えたことについて、中国外務省の華春瑩報道官は、4日の記者会見で「両国は関連海域で境界を画定しておらず、演習区域に日本のEEZが含まれるという見解は存在しない」と主張しました。
一方、国営の中国中央テレビに出演した軍事専門家は、弾道ミサイルの一部が初めて台湾の上空を通過したという見方を示しました。
演習は7日まで行われ、台湾周辺では緊張した状況が続いています。
台湾 蔡英文総統「演習は台湾海峡の現状を破壊」
中国による大規模な軍事演習について、台湾の蔡英文総統が4日夜動画で談話を発表しました。
蔡総統は「演習は台湾海峡の現状を破壊し、われわれの主権を侵すだけでなく、インド太平洋地域に高度の緊張をもたらし、海運と空運の安全や国際貿易に空前の脅威となっている」として、中国に自制を厳しく要求しました。
そして「われわれから紛争を引き起こすことはないが、主権と安全は断固守り、民主主義と自由の防衛ラインは堅守する。冷静さを保って軽率な動きをせず、理性をもって挑発を避けるが、引き下がることは絶対にない」と強調しています。
さらに「民主主義の台湾を支持し、一方的で非理性的な軍事行動を共同で制止するよう国際社会に呼びかける」としたうえで「台湾海峡の平和は地域のメンバーに共通の責任がある。われわれは台湾海峡両岸の現状維持に力を尽くし、建設的な対話にも開放的な態度をとり続けている」と述べ、対等な対話に応じるよう中国に求めました。
台湾総統府 中国に自制を厳しく求める
台湾総統府は、中国軍の大規模な演習について「船舶や航空機が多く行き交う国際航路で軍事行動をとり、台湾海峡の現状とインド太平洋地域の平和と安定を一方的に破壊している」と非難し、中国に自制を厳しく求めています。
一方、台湾の市民に対しては「弾道ミサイル発射の動向は即時把握し、防御システムを立ち上げているので安心してほしい」と呼びかけています。
国防部も中国軍による弾道ミサイルの発射について随時、情報を発表し、市民の不安が増幅するのを防ごうとしているとみられます。
市民生活はほぼふだんどおりですが、台湾を発着する民間の航空便の一部は、演習区域を避ける遠回りの航路をとっているため遅れが出ています。
また台湾のテレビ局は、船で離島に出かけるのをキャンセルした観光客の話や、客が減ったという遊覧船の船長の話などを伝えています。
台湾当局は運輸の安全確保に加えてサイバー攻撃やフェイクニュースの対策などに取り組み、中国が台湾の市民の心理や社会の秩序を乱すことを全力で防ぐと強調しています。
中国軍の戦闘機 台湾海峡の「中間線」越えも
台湾国防部の発表によりますと、台湾海峡では4日、中国軍の戦闘機延べ22機が「中間線」を越えて台湾側の空域に進入しました。
台湾海峡の「中間線」は中台両軍の偶発的な衝突を避けるための境界線とされ、これを越えて相手側に近づく飛行は挑発の度合いがより高いとみなされます。
しかし中国軍の戦闘機は3日も延べ22機がこの線を越え、2日連続で台湾側に進入しました。
中国当局は最近「中間線」の存在を認めないという立場を公然と示すようになっていて、多数の戦闘機による連日の飛行によって「中間線」の消失を事実上ねらっているとみられます。
台湾にとっては「中間線」が維持できなければ防衛ラインが後退することになります。
一方、台湾軍の金門防衛指揮部によりますと、中国福建省の沿岸に位置し台湾が実効支配する金門島周辺の上空に4日、中国軍のものとみられる無人機4機が接近し、台湾軍が警告のための信号弾を発射しました。
これらの離島では3日も同様の事案が確認されています。