[ロンドン/バーミンガム(英国) 3日 ロイター] – クワーテング英財務相は3日、所得税の最高税率を引き下げる計画を撤回することを明らかにした。トラス政権は発足から1カ月足らずで屈辱的な政策変更を強いられた。
先月発表した大規模減税や国債増発などの財政計画は市場を揺るがし、野党のみならず与党内でも批判の声が上がっていた。
450億ポンドとされた減税規模のうち、最高税率引き下げが占めるのは20億ポンド程度に過ぎないが、財源を明示しなかったため最も強い批判を浴びた。
同相は声明で「(最高)税率45%の廃止は進めない。われわれは理解し、耳を傾けた」と述べた。この政策が経済を成長させ、家計が厳しい冬を乗り越えるのを助ける取り組みを妨げていたことを認めるとした。
BBCラジオに、軌道修正の決定には「謙虚さと悔恨の念がある」と述べた。
クワーテング財務相はその後、議員や支持者が参加する保守党の年次総会で「謙虚さと悔しさ」をもって今回の決定を下したと表明。先週の激動を認めながらも、政府は成長を回復させ、新たな道を進まなければならないとの考えを示した。
トラス英首相は2日、内閣が最高税率の引き下げを知らされていたのかと問われ「知らされていなかった。クワーテング財務相が決定したことだ」とBBCに語っていた。
トラス氏はツイッターに投稿し「今後は高成長経済の構築に照準を合わせる。世界レベルの公共サービスに資金を提供し、賃金を引き上げ、国中で機会を創出する」と表明した。
「45%の最高税率廃止が英国を前に進めるわれわれの使命の妨げになっていた」とした。
政権発足から4週間もたたないうちに計画撤回を余儀なくされたことで、トラス、クワーテング両氏への風当たりが強まるとみられる。
クワーテング氏は同氏とトラス氏で今回の決断を下したと明らかにした。また辞任を検討していないと述べた。
ノルディアのチーフアナリスト、ヤン・フォン・ゲリッチ氏は「市場の観点からは正しい方向への良い一歩だ。市場がこのメッセージを受け入れるには時間がかかるが、圧力は緩和されるだろう」と語った。
パンミュア・ゴードンのチーフエコノミスト、サイモン・フレンチ氏は問題は税制改正ではなく、これに先立つ制度的な「焦土化政策」だと述べた。「英国のリスクプレミアムは、この問題が解決されない限り下がらない可能性が高い」との見方を示した。
減税の発表を受けて対ドルで過去最安値を更新したポンドは0725GMT(日本時間午後4時25分)現在、0.4%高の1.12ドル。英国債利回りは低下している。
ある保守党議員は匿名を条件に「驚くべき展開だ」とし、「すでにダメージは受けた。今はわれわれも無能に見えるだけだ」と述べた。
別の保守党関係者は、信頼と信用が失われたことで、保守党は「一日一日を生き延びる」モードに入ったと指摘。保守党は過去12年にわたり政権を担ってきたが、現トラス政権は9月6日に発足したばかり。
今回の政策転換でトラス氏とクワルテン氏に対する圧力はさらに増大するとみられる。クワルテン財務相は辞任すべきか、それとも解雇されるべきかとの質問に対し、ある保守党議員は「クワルテン氏は著しく弱体化した」と答えた。