日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診していることがわかった。米側は売却に前向きな姿勢を示し、交渉は最終局面に入っている。日本政府は、保有を目指す「反撃能力」の手段として、国産ミサイルの改良計画を進めているが、早期に配備できるトマホークが抑止力強化に不可欠だと判断した。
複数の政府関係者が明らかにした。トマホークは米国の主力精密誘導型の巡航ミサイルで、射程は1250キロ・メートル超だ。全地球測位システム(GPS)衛星の位置情報などを使ってピンポイントで目標を破壊する。1991年の湾岸戦争で実戦投入されて以降、数々の実戦で用いられ、高性能ぶりを発揮している。
日本政府は、年末までに改定する国家安全保障戦略で、自衛目的で敵のミサイル発射基地などを破壊する反撃能力の保有を明記する方向で調整している。トマホークを反撃能力を担う装備とする考えだ。海上自衛隊のイージス艦の迎撃ミサイル用の垂直発射装置を改修し、搭載することを想定している。発射位置によっては、朝鮮半島などが射程圏内に入る。
政府は反撃能力の手段として、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を射程1000キロ・メートルに改良し、活用する計画を進めている。ただ、量産化を経た実戦配備は2026年度とされている。政府内では、まず国外からミサイルを導入して反撃能力を速やかに確保した後、国産ミサイルも含めた装備を整える方向で調整が進められていた。
8月に就任した浜田防衛相がトマホークの導入を決断し、米側との交渉を本格的に進めた。日米関係筋によると、同盟国との協力などで抑止力を高める「統合抑止」を重視する米国防総省はおおむね了承し、米政府内での最終調整が行われている段階だという。
トマホークは1発1億~2億円が相場とされる。日本政府は、米政府を通じて装備品を購入する「対外有償軍事援助(FMS)」を通じた導入を行うことを検討している。
「米に攻撃依存」から転換決意示す
米国が誇る精密誘導兵器「トマホーク」の自衛隊への導入が実現すれば、反撃能力の実効性は格段に向上する。日米同盟深化を示すものとなり得る。
日本は2013年の防衛計画の大綱の改定に際しても反撃能力の保有を検討し、米側にトマホーク購入を水面下で打診したことがある。しかし、当時のオバマ政権は中国や韓国の反発を懸念し、難色を示した。米国はトマホークについて、売却先を英国などに厳しく限定している。機密情報の保全を含め、日本への不信感もあったとされる。
米側が売却に前向きな姿勢に転じたのは、安全保障関連法や特定秘密保護法などの制定を通じ、日本への米国の信頼度が高まった証左といえる。バイデン政権は、日本の打撃力向上にも期待を寄せる。
攻撃する矛の役割は米国に委ね、日本は盾に徹する。そんな戦後の安全保障政策は、日本周辺の安保環境の悪化で限界を迎えている。平和を守るための抑止力は、攻撃すれば、反撃されると相手に警戒させてこそ機能する。トマホークの導入により、日本は米国に極度に依存した「軽武装路線」を転換する決意を内外に示すことになる。岸田首相は丁寧に必要性を説明することが求められる。(政治部 海谷道隆)