この状況をなんと言えばいいのだろうか、言葉で表現できないようなある種の「アホらしさ」がある。早朝からT V各局がけたたましい勢いで報道した「北朝鮮によるミサイル発射」関連の一連の報道だ。このところの北朝鮮のミサイル発射は狂っているとしか言いようがない。きのう韓国向けに数十発のミサイルを発射したかと思えば、今朝は日本海に向けて複数のミサイルが発射された。異常という言葉しか思い当たらない。米韓の共同軍事演習に異議をとなえる示威行動だろうが、自らの弱さや脆さを曝け出しているようにしか見えない。それが今朝は日本に向かった。1発目のミサイル発射は今朝の7時40分ごろ。8時過ぎにTVをつけたら各局がこぞってこの情報を取りあげていた。チャンネルを変えてみたがすべての局がこの情報。NHKはB Sもこの情報だった。各局が同じ内容の情報を繰り返し、繰り返し流していた。
扱い方がまた異常だ。ミサイルが新潟、山形、宮城県にまたがる上空を通過、関係する地域の視聴者に何回も、何回も安全なところに避難するよう呼びかけていた。この時点でミサイルはすでに日本上空を通過して太平洋に落下している。ミサイル発射に伴う最大の危機はすでに通り過ぎているのだ。にもかかわらず各局は時間の経過を無視しミサイルが直撃するかのような緊張感で、ただただ危機感を煽り立てていた。どこか1局でも「最大の危機は通り過ぎました」と言えばまだしも、どの局もそんなことは一切言わない。早期警戒システム(Jアラート)がけたたましく鳴り響いたことも、各局の緊張を高めたのだろう。ミサイルが今まさに日本に向かって飛んでいるかのような雰囲気だ。ミサイルが通り過ぎてもなお、Jアラート並みに危機感を煽りまくる。北朝鮮の異常な行動を日本中のT V局は、これに勝るとも劣らぬ異常な雰囲気で伝えていた。
現在進行中の出来事をその渦中で活字にすることには、大きなリスクがつきまとう。それでもここまでの報道に異常な雰囲気を感じたのは私だけではないだろう。そうこうするうちにニュース速報が流れる。「北朝鮮が発射したミサイルは日本の上空を通過しなかった可能性がある」、一瞬頭が混乱した。理解できなかったと言った方がいいかもしれない。浜田防衛相が説明する。「日本上空を通過する可能性があると判断した。だが、このミサイルは日本上空で消滅した」。なんということだ。T V局はありもしない情報で踊らされたのか。「こんなことで日本のミサイル防衛システムは本当に機能するのだろうか」、正直な感想だ。だが、最悪の危機を避けるために「可能性を優先した判断」は間違っていないと思う。だが“消滅”したミサイルで演じたこの大騒ぎは一体何だったのか。これではまるで水鳥の羽音に驚いて逃げ出した平家さながらだ。敵基地攻撃能力の強化どころではない。
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