[モスクワ 30日 ロイター] – ロシアのプーチン大統領が掲げるトルコに天然ガス輸送の「ハブ」を設けるという構想が実現すれば、ロシアは産地を隠して天然ガスを輸出することが可能になるだろう。しかし、専門家はこの構想で欧州諸国がロシア産の購入にまで動くことはないのではないかと懐疑的だ。 

ロシアは2月下旬のウクライナ侵攻まで欧州連合(EU)の天然ガス市場で40%のシェアを握っていた。だが、侵攻後に欧米諸国は広範囲な経済制裁を科してロシア産燃料の購入を停止し、ロシアに代わる輸入元を探している。

プーチン氏はロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」での爆発による損傷発生後の10月、トルコにガス輸送のハブを設け、南回りの輸出ルートを整備する構想を打ち出した。詳細は不明だが、プーチン氏はトルコに輸送ハブを比較的速く設置すると述べ、欧州の顧客は契約を結びたがるとの見通しを示した。

これまでのところ購入契約に前向きな見解が公に示されたことはなく、アナリストは構想の実現には投資と時間が必要だと指摘している。

モスクワに拠点を置くエネルギー財政基盤研究所のアレクセイ・グロモフ氏は「EU諸国が近い将来、ロシア産ガスを購入しないと決めている以上、欧州にとって必要なプロジェクトだろうか」と疑問視する。

また、「ノルドストリーム1」経由でガス供給を受けていた大陸北西地域の欧州諸国は、構想されているハブと結ぶ既存のルートがなく、EU域内の輸送体制の再構成は不可能だとも指摘した。

<輸送能力に余裕>

ただ、天然ガスにも、パイプラインの容量にも余裕がある。

ロシアの欧州向けガス輸出は今年43.4%減少し、黒海を通ってロシアからトルコに至るパイプライン「トルコストリーム」の輸送量は年間315億立方メートルの容量を大幅に下回っている。

調査会社リスタッド・エナジーのシニアアナリスト、Zongqiang Luo氏の推計によると、年初から今月21日までの輸出量は約106億立方メートルで、パイプライン輸送容量の約60%が未使用だ。

Luo氏は、コストのかかる、必要な新しいインフラの建設には少なくとも3、4年かかると予想。「新しいパイプラインができたとしても、輸送されたガスを誰が買うのか」と述べた。

買い手は見つかるとの見方もある。

ロシアの天然ガスパイプライン運営大手ガスプロムの関係者は、トルコの輸送ハブで販売に弾みが付くと確信していると自信を示した。このハブを経由すれば「ロシア産ではなく、ハブから輸出されるガスになる」と話す。

欧州の貿易関係者によると、中国は既にロシア産液化天然ガス(LNG)を、ロシア産と表示せずに再販している。南欧や東欧の買い手は産地を気にしないだろうという。

S&Pグローバル・レーティングスのディレクター、アレクサンダー・グリャズノフ氏は、欧州は石油とは対照的にロシア産ガスに対しては禁輸措置を取っておらず、仲介者を挟んだロシアからの購入には前向きになる可能性があると述べた。

「欧州はロシアと直接契約を結ぶのは望まないだろうし、トルコのスポット市場で自由に買うことは政治的に受け入れられるだろう」と予想。ただ、ハブ設置には時間と資金が必要だとくぎを刺した。

<トルコとの密接な関係>

2016年にはトルコの首都アンカラでロシアのアンドレイ・カルロフ駐トルコ大使が殺害される事件が起きたほか、その1年前にはトルコ・シリア国境付近でトルコがロシア軍機を撃墜するなど、トルコとロシアは関係が緊迫する場面もあった。それでもトルコのエルドアン大統領とプーチン氏は密接な関係を築いている。

トルコは、アゼルバイジャンの天然ガスをトルコ国境まで運ぶ「トランスアナトリア天然ガスパイプライン(TANAP)」をハブ構想に含めることも可能だとしている。

トルコとアゼルバイジャンは先月、パイプラインの容量を現在の160億立方メートルから「短期間」で倍増することで合意。今月23日にはロシアのガスプロムの幹部とアゼルバイジャンの国営エネルギー会社の幹部がモスクワで会談した。

会談の詳細は明らかになっていないが、ロシアは今月、新たな短期契約でアゼルバイジャンに10億立方メートルのガスを供給することに合意した。

ロシアは以前から、トルコストリームに2本のパイプラインを加え、年間輸送能力を630億立方メートルに倍増させるという計画を持っていた。トルコのハブ構想はこうした計画に立ち戻るものだ。

ガスプロムのデータによると、これはロシアが2020年にオーストリア、ブルガリア、ハンガリー、イタリア、セルビア、スロベニア、トルコにさまざまなルートで輸出したガスの合計量に相当する。

(Vladimir Soldatkin記者、Olesya Astakhova記者)