[9日 ロイター] – ステーブルコインの「テザー」が、「最もリスクの低い」暗号資産(仮想通貨)の座を獲得しようとしている。

米地銀の破綻劇が広がり、規制当局による仮想通貨企業への締め付けが強まる中で、仮想通貨の世界でも比較的安全な資産に投資する流れが強まってきた。

テザーは、ドルなど一部の法定通貨に価格がペッグ(連動)するステーブルコインの中でも最も大きく値上がり。時価総額は3月から急増した。

テザーはドルの準備金を担保とし、ドルに1対1でペッグしている。供給上限は約850億コイン。需要があまりにも強いため4月半ばから価格が1ドルを上回っており、先週は1ドル=1.002を付けた。

銀行危機を背景に、ビットコインやイーサなどの仮想通貨も逃避的に買われた。

テザーのようなステーブルコインは価値の貯蔵手段という色彩が濃いほか、仮想通貨間の資金移動を潤滑にする手段や、デリバティブ取引の担保としても使われる。

デジタル資産データ会社カイコの調査アナリスト、コナー・ライダー氏は、テザーが他の仮想通貨よりも好調な理由として、ペッグ制に対する信頼の強まりと、米証券取引委員会(SEC)の規制を受けないと見なされている点を挙げた。

テザーは英領バージン諸島に登録している企業iFinexが所有している。主なライバルであるステーブルコインは、ボストンに拠点のあるサークル社が運営するUSDC。こちらは、破綻した米シリコン・バレー銀行(SVB)への投資やSECによる仮想通貨企業への調査などが嫌気されている。

やはり主要ステーブルコインのバイナンスUSDは、米当局によって未登録の証券というレッテルを貼られて以来、開発者が新規コインの発行をやめると表明して価格が下落した。

ステーブルコインのDAIは、他のステーブルコインや仮想通貨から成る準備金を担保とする異例の仕組みがあだとなり、行き詰まっている。

AKJグローバル・ブローカレージ(オスロ)の創業者、Anders Kvamme Jensen氏は「テザーは米国志向が低い、つまり規制リスクが低いとみなされている。テザーとビットコインを買うという行為は、米国の制度に反対票を投じるのと同じだ」と説明した。

コインマーケットキャップのデータベースによると、テザーの時価総額は820億ドルと仮想通貨2万3891種類の中で3番目に大きく、シェアは6.83%となっている。

ステーブルコインは昨年、仮想通貨企業の相次ぐ破綻を受けて全面安となった。またテザーは長年、ドルの準備金を担保とする仕組みに疑念が持たれてきた。

ライダー氏は「テザーが業界で最も信頼されるステーブルコインになったのは、興味深い逆説だ」と言う。同氏は、テザーは現時点でドルと1対1のペッグを安全に提供できる数少ないステーブルコインの1つであるという点で、「ビットコインとは異なる逃避通貨としての地位」があると解説した。

ビットコインも年初から約73%上昇している。

(Tom Wilson記者、 Vidya Ranganathan記者)