[上海/シンガポール 21日 ロイター] – 資金難にあえぐ中国の地方政府にとって命綱だった、民間からの資金調達ルートが断たれようとしている。信用リスクとデフォルト(債務不履行)の不安が高まる可能性がある。
中国当局は何年も前から地方政府の借り入れ規則を厳格化し、銀行融資や起債へのアクセスを抑制してきた。このため地方政府の資金調達組織である融資平台(LGFV)は、次第に民間ファンドを通じた資金調達ルートに深く入り込んでいった。
しかし中国証券投資基金業協会(AMAC)は4月末に示した草案で、民間ファンドが純資産の25%以上を単一の債券に投資したり、その発行体から仲介手数料を受け取ることを禁止する方針を打ち出した。こうしたファンドは通常、LGFVが発行した流動性の乏しい高利回り債を、資産運用会社が仲介して販売する手段となっている。
AMACの方針は、9兆5000億ドル規模に上る地方政府債務を抑制するための、最新の一手と位置付けられる。しかし中国政府は折しも、地方政府の支出に景気てこ入れを頼っている。締め付けは、中国金融界の「ブラックホール」と言われるLGFVのリスクを顕在化させる恐れもある。
AMACは最終決定を下す日程など、詳細についてのコメントを控えた。
ただ市場参加者はAMACのルール変更について、資産運用会社が仲介役となってLGFVに資金を流す人気の仕組みに狙いを定めたものだとみている。
資産運用会社ゼ・ファンド・マネジメントのパートナー、ジュー・ヤンモ氏は「この措置の狙いは正しいが、LGFVの信用環境をさらに悪化させかねない」と指摘。「だから、われわれはLGFV債への慎重姿勢をいよいよ強めている。財政状態が弱い地方でデフォルトリスクが高まるからだ」と語った。
ジュー氏の試算では、中国に約270社ある高利回り債専門の民間ファンド企業は、ファンドの組成を通じてLGFVによる総額約70億ドル相当の資金調達を助けている可能性がある。
AMACの新規則が導入されれば、「こうした資産運用会社はビジネスモデルを変えない限り、とても生き残れないかもしれない」とジュー氏は語った。
中国の景気が減速する中、LGFVは土地販売が思うように行かず、ただでさえ債務返済に苦慮している。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームは「LGFVの債務は試練を迎えており、悪いニュースが出れば、従来よりも大きなテールリスクが織り込まれる可能性がある」と指摘する。
<資金調達を工夫>
地方政府の債務は長年、金融の安定を脅かしかねないリスクとされてきた。ただ、規制強化が進んでもLGFVが資金調達手段を工夫してきたため、深刻な懸念は回避されてきた経緯がある。そうした手段の1つが民間ファンドだった。
ある債券ファンドマネジャーは、民間ファンドはAMACに登録しているため、「表面上は完全に合法的に見える」と言う。しかし実体は、多様な資産を買ってファンドを構成するのではなく、単一のLGFV債に投資し、運用手数料だけでなく引受手数料も得ているファンドが多い。利益相反が生じて信用リスクも高いと、このファンドマネジャーは話す。
例えば現在、上海のある資産運用会社が販売している商品は、山東省のLGFVが発行した債券にしか投資しておらず、期間2年で利回りは7.5%に達する。同期間の中国国債の利回りは2.2%だ。
もちろん、LGFVはこれまで静かだった上海のオフショア起債市場を利用するなど、他の資金調達ルートも開拓している。投資家は、地方政府が今後も債務返済の道を見つけられると期待している。
とはいえ、AMACの規制変更案は、地方政府の債務抑制に向けた当局の決意が揺らいでいないことを印象付けるものだ。
債券分析企業レイティングドッグの創業者、ヤオ・ユー氏は「規制当局はLGFVの債務リスクから個人を保護しようとしている。個人投資家が債務を引き受けることになれば大きな痛みを伴い、支払い能力を超える恐れがあるからだ」と解説した。
(Jason Xue記者、 Tom Westbrook記者)