[東京 21日 ロイター] – 日銀が4月27―28日に開いた金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しについて「検討しても良い状況にあるが、もう少し様子を見ることが適当」との意見が出ていたことが明らかになった。「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)の物価見通しの議論では、委員の見解にやや強弱感がみられた。
日銀が21日、決定会合の議事要旨を公表した。植田和男総裁の下で開かれた初めての決定会合で金融政策の現状維持を決め、YCCの運用方針も維持し、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.5%で据え置いた。
YCCに関しては、イールドカーブの歪みの解消が進んでおり、運用を見直す必要はないとの意見で一致した。その中である委員は、市場機能は依然低いままだと指摘、「YCCは円滑な金融を阻害している面も大きく、見直しを検討しても良い状況にあると考えている」とした上で、「国際金融市場の状況を踏まえるともう少し様子を見ることが適当だ」との見方を示した。
また、ある委員は、物価見通しはいくぶん上振れているが「2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク」より、「拙速な金融緩和の修正によって2%実現の機会を逸してしまうリスク」の方がずっと大きいと述べた。一方で、1人の委員は、超低金利が経済主体の行動様式に組み込まれている状況下、「金利の急変動は避ける必要があり、物価や賃金の動向を謙虚に見つめ、早すぎず遅すぎず対応することが必要だ」との見方を示した。
<物価観、強弱分かれる>
展望リポートでは、2023年度の生鮮食品を除く消費者物価指数の見通し中央値は前年度比プラス1.8%とした。24年度はプラス2.0%となったが、25年度はプラス1.6%と2%目標から遠ざかる姿になった。
1人の委員は「人手不足による人件費上昇や海外のインフレの影響もあって、物価は当面、上昇を続ける」との見方を示した。別の1人の委員は、ベースアップによる恒常的な所得上昇が「コストプッシュ要因に比べて消費者物価をより持続的に押し上げる」と指摘、「賃金と物価の持続的な好循環につながりやすい」と述べた。
その一方で、何人かの委員は、企業の価格設定スタンスに変化が見られているもの の、既に輸入物価がピークアウトしていることや、日本では需要超過を受けて販売価格を引き上げる動きが米欧ほどには見られておらず「米欧のように物価上昇率が高止まりする可能性は大きくない」と指摘した。
1人の委員は、家計の節約志向の高まりや低調な実質賃金などを考えると、先行きの物価は「2%をかなり下回る水準まで低下し、そのまま2%に戻らなくなるというシナリオにも注意しておく必要がある」と警戒感を示した。
<物価上振れ、「政策金利の下方バイアスの扱いも論点」>
日銀はこの会合で金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)を整理し、新たに「賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを目指していく」との1文を入れた。
「賃金の上昇を伴う形で」との文言が入ったことについて、1人の委員は日銀が「賃金や企業収益も含めた好循環の中で物価目標の実現を目指しているということを丁寧に説 明するよい機会ではないか」と述べた。一方で複数の委員から「日銀が新たな政策目標を追加したという誤解を招くのではないか」との意見もあり、誤解を招かないよう、適切な対外コミュニケーションを求めた。
先行き指針からは、新型コロナウイルスの動向を注視するとの文言とともに、政策金利について「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」としてきた部分も削除された。1人の委員は、物価に上振れリスクがある中で、政策金利の下方バイアスの文言を残しておくのが適当かという論点もあると述べていた。
ある委員は、当面、現在の金融緩和継続が適当であり「フォワードガイダンスの修正が金利引き上げ容認ととられないように、慎重を期すべきだ」と指摘した。
<米銀破綻に意外感>
このほか、1人の委員は米国の一部地銀の破たんについて「銀行部門で問題が生じたことは意外だった」と述べた。その上で「利上げによる金融引き締め効果が今後もさまざまな形で経済・金融面に波及すること自体は覚悟しておく必要がある」と指摘した。
(和田崇彦 編集:田中志保、石田仁志)