ローラ・ビッカー、アジア太平洋特派員
アメリカと中国の対立関係は、多くの人が不可能だと考えていたことを実現させた。それは、ジョー・バイデン米大統領と日本の岸田文雄首相、そして韓国の尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領による歴史的会談だ。
バイデン氏は18日、ホワイトハウス近郊の大統領公式別荘キャンプ・デイヴィッドで、3カ国の首脳会談を初めて単独開催した。これはアメリカ大統領にとって外交上の一大成果だが、先行きが確かとはまだ言えない。
韓国と日本は隣国同士で、どちらもアメリカの古くからの同盟国だ。ただ、両国が友人同士だったことはない。
しかし今、中国が強硬姿勢をますます強めることで、アメリカの東アジアに対する関心は再び高まっている。そして、深刻な歴史的遺恨をなかなか乗り越えられずにいる2つの国が、その影響で歩み寄ることになった。
バイデン氏は会談に先立ち、日韓両首脳の「政治的勇気」をたたえた。
「団結すれば、私たちの国々は今までより強くなり、世界はより安全になる。それは、ここにいる私たち3人全員が共有している信念だ」と、バイデン氏は述べた。尹氏は、「歴史的な日」だと語った。
3カ国は共同声明で、東シナ海と南シナ海での海洋紛争における中国の「危険かつ攻撃的な行動」に反対するとした。
また、定期的な合同演習を実施するほか、危機の際には互いに協議すること、北朝鮮に関するリアルタイムのデータを共有すること、日米韓首脳会談を毎年開催することでも合意した。
「キャンプ・デイヴィッドでの会談には驚かされた」と、米ジョージタウン大のデニス・ワイルダー教授は米ソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)に投稿した。ワイルダー氏は、ジョージ・W・ブッシュ政権下で日韓関係を担当していた。
当時は「韓国と日本の首脳を同じ部屋に集めて、私たちと話をしてもらうことさえ、非常に難しかった」と、ワイルダー氏は述べた。
ここ数カ月で岸田氏と尹氏は、両国の対立関係を解消するため、そして米政権との関係強化のため、互いに少しずつ前進してきた。日本と韓国という、かつては考えられなかった組み合わせを連携に向けて突き動かしている最大の要因は、中国という共通の懸念材料だ。
ホワイトハウスの報道官によると、外国首脳がキャンプ・デイヴィッドを訪れたのは、バラク・オバマ政権下の2015年以来で、バイデン氏が日韓関係を「いかに真剣に」受け止めているのかを「示し、そしてそれを実際に見せる」ための試みという。
なぜこれほど時間がかかったのか?
原因の一つには、古くからの傷があげられる。
両国は、友人のような敵のような関係にある「フレネミー」だと言う人もいるかもしれない。しかし、第2次世界大戦中に日本軍に連れ去られ、性奴隷にされた大勢のいわゆる「慰安婦」を含め、韓国人の間に残る深い傷を表すには、「フレネミー」とは、あまりにも陳腐な言葉だ。
韓国の人々は、日本人が1910年から1945年まで朝鮮半島を植民地化したことについて、適切に謝罪していないと考えている。一方で日本政府は、いくつかの条約を通じて、過去の罪は償ったと主張している。
デタント(緊張緩和)というのは常に、ジェンガゲームのようにもろい。東アジア地域が強固に見える時でさえ、たった一つの動きを間違えれば、建物全体が崩壊しかねない。
2018年には、第2次世界大戦中の日本企業による強制労働をめぐる長期の裁判が貿易戦争を引き起こした。日韓関係は1960年代以降で最悪の状態にまで冷え込んだ。
ところが、今年3月の画期的な日韓首脳会談など、最近では進展が見られる。そしてこれが、アメリカ政府に格好の機会をもたらした。
日韓両政権はそれぞれ自国内での支持をたとえ犠牲にしてでも、これまでの立場の相違をいったん脇に置いた。それには、それ相応の理由がある。
結局のところ、今はプラグマティック(実践的、実用的)な政治の時代であり、両国はより大きな脅威が迫っていることを理解しているのだ。
アジアにおける中国の強引な姿勢は、近隣諸国を警戒させている。中国政府は、民主制を敷く台湾に対して領有権を主張し、中国大陸との「統一」を実現する手段として武力行使を排除していない。台湾領空への侵入や、台湾周辺での大規模な軍事訓練は今や、中国が言うところの「ニューノーマル(新常態)」になっている。
日韓共通の懸念には、北朝鮮問題もある。北朝鮮は2022年に入ってから、日本に向けてミサイルを発射するなど、兵器実験を100回以上行っている。また、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、韓国や日本を含む多くの国々は国家安全保障を否応なしに優先するようになった。
こうしたすべての要素が重なった結果、アメリカの歴代政権が失敗してきた課題で、バイデン氏は成功することができた。歴代政権が試みては失敗してきた日韓関係の修復が、バイデン政権で実現したのだ。
「この30年間で少しずつ動いてきた3カ国(日米間)関係の歴史における大きな節目になる」と、ワシントンにあるブルッキングス研究所のアンドリュー・ヨー上級研究員は述べた。
そして、3カ国はこの1年ほどの間に得た「進歩を確固たるものにする」ことを目指すと「同時に、北東アジアやインド太平洋地域におけるさまざまな安全保障上の課題に対処する(中略)機運を高める」ことになるだろうとした。
それには、防衛や外交、技術に関する合意を結ぶことが含まれることになる。定期的な軍事演習の実施や、3者間の新たな危機ホットラインの設置、そして年に1回の日米韓首脳会議の開催で合意したことはすでに知らされている。米政権の次なる目標は、現職の指導者間に留まらない長期的な関係の構築だ。
「バイデン氏、尹氏、岸田氏は、キャンプ・ディヴィッドでの画期的な会談を越える、さらに大きな歴史を作るチャンスを掴んでいる」と、新アメリカ安全保障センターのドゥヨン・キム氏は述べた。
「韓日政権の関係は今後も浮き沈みが続くだろうから、各政府が、現指導者の任期に留まらない共同ビジョンを積極的に実行する必要がある。そうでなければ、次の選挙で極左の韓国の大統領と極右の日本の首相が選ばれた場合、バイデン氏、尹氏、岸田氏が今取り組んでいる、意義のある大変な仕事が台無しにされるかもしれない」
それを実現するには課題が残っている。
今後も続くのか
米国家安全保障会議のインド太平洋調整官を務める、カート・キャンベル大統領副補佐官(国家安全保障担当)は、岸田氏と尹氏の「政治的勇気」をたたえ、「息をのむような外交」だとたたえている。
しかし、国のトップが変われば方針も変わるかもれない。
「緊張関係はそれほど深く根を張っている」と、前出のヨー氏は言う。「特に韓国の側では。日本がかつて朝鮮半島を植民地にしたことからくる歴史的な遺恨にもとづく、そうしたこわばった感情は、そうそう一夜で消えてなくなるものではない。たとえば数週間前に日本の防衛省が(2023年年版防衛白書で)独島(日本名・竹島)について『わが国固有の領土』と主張した時のように、外交的な問題は今後も繰り返されるはずだ」。
「岸田氏と尹氏の、自国での支持率は比較的低い。それだけに両首脳が韓国と日本の二国関係にどこまで重きを置けるのかは、支持率によって制限されるかもしれない。加えて私は両国がいずれ、特に日本が、朝鮮半島をはじめとする各地を植民地支配した過去に、今まで以上に徹底的に向き合う必要があると考えている」
さらに日本と韓国は、バイデン大統領ほどには厳しく中国を批判しようとしないかもしれない。
また、国家安全保障に関する合意に比べると、経済政策については合意が難しいかもしれない。
米中関係の悪化とそれに伴う経済制裁は、韓国と日本にも負担となっている。両国にとっても中国は重要な貿易相手だからだ。そして、サムスンや日産といった韓国と日本の企業は、中国の労働者と消費者に大きく依存している。
中国は3カ国の首脳会談開催前から、3カ国のサミットについて不快感を示していた。ホワイトハウスがどれだけ否定しようと、中国はアメリカが自分たちの影響力を「封じ込め」ようとしていると見ている。中国国営メディアは首脳会談が始まる前から、「ミニNATO(北大西洋条約機構)」と呼んでいた。
中国の王毅外相は日韓両国に、「アジア再生」のため中国政府と協力するよう連携を呼びかけている。
7月3日に中国で開かれた日中韓フォーラムで王外相は、異例なほど率直に、「どんなに髪を金髪に染めようが、鼻を細くとがらせようが、決して欧州人やアメリカ人にはなれない。決して西洋人にはれない。自分たちのルーツがどこに根差しているか、自覚しなくてはならない」と発言。この動画はその後、広く拡散された。
バイデン大統領はアジアにおける防衛同盟の構築に専心し、成功したのかもしれない。しかしそのため、中国や北朝鮮との交渉の余地はほとんどなくなった。
いつまでもそうではないかもしれない、情勢は変わるのかもしれないと思わせる兆候はあった。アントニー・ブリンケン米国務長官、ジャネット・イェレン財務長官、ジョン・ケリー気候問題担当大統領特使といったアメリカ政府幹部が、このところ立て続けに北京を訪れたからだ。
さらに一部報道によると、アメリカ政府が北朝鮮の金正恩氏に「前提条件なし」での高官級会談を打診したとも言われている。
しかし、時間は少なくなりつつある。アメリカでは大統領選や連邦議会選が行われる、選挙の年が間もなく始まるからだ。
(英語記事 US hosts Japan-S Korea summit, but will détente last?)