日銀は、31日まで開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持した上で、長期金利の上限を「1%」に厳格に抑えるとしてきたこれまでの運用を改めて上限を「1%をめど」に見直し、金融政策の運用をより柔軟化することを決めました。長期金利が1%を超えても一定水準までは金利の上昇を容認する方針です。
日銀は、31日までの2日間、金融政策を決める会合を開き、
▽短期金利をマイナス0.1%
▽長期金利をゼロ%程度とする
大規模な金融緩和策の枠組みを維持しました。
そのうえで、長期金利の上限を「1%をめど」に見直したうえで大規模な国債の買い入れと機動的な金融市場調節を中心に金利の操作を行い政策の運用をより柔軟化することを決めました。
長期金利が1%を超えても一定水準までは金利の上昇を容認する方針です。
日銀は、ことし7月の会合で、それまで0.5%程度としていた長期金利の上限を事実上、1%まで容認することを決め、長期金利が1%まで上昇すれば国債を毎営業日、無制限に買い入れて金利を抑え込む方針を示していました。
しかし日銀は、長期金利の上限を厳格に抑えることは強力な効果がある反面、副作用も大きくなり得ると判断し、今回、政策の運用をより柔軟化し、市場の動向を踏まえ機動的に対応できるよう改めました。
国債の市場では、アメリカの金利上昇につられる形で長期金利が上がり続け、31日午前、0.955%まで上昇し、上限の1%に迫っていて日銀の対応に市場の注目が集まっていました。
日銀の決定 中村委員が反対
今回の日銀の決定は9人の政策委員のうち賛成8、反対1で決まりました。
反対したのは中村豊明審議委員です。
中村審議委員は、政策の運用をさらに柔軟化することについては賛成だとした上で、法人企業統計などで企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえで、行う方が望ましいと主張しました。
長期金利上昇の背景は
日銀はことし7月28日の会合で金融政策の運用を見直し、長期金利の上昇をそれまでの0.5%程度から、事実上1%まで容認することを決めました。
この日の会見で、日銀の植田総裁は「長期金利が1%まで上昇することは想定していないが、念のための上限、キャップとして1%とした」と述べていました。
しかし、0.5%以下に抑えられていた国債の市場の長期金利は、7月31日に0.6%を突破し、9月11日には0.7%、10月4日には0.8%を超え、31日には一時、0.955%まで上昇。
7月の会合から3か月で事実上の上限としていた1%に迫りました。
こうした急速な長期金利の上昇の背景には、アメリカの金利上昇があります。
アメリカでは経済状況が堅調なことに加えて原油価格の上昇などによるインフレ懸念が根強く、金融引き締めが続くとの見方が多くなっています。
このため、アメリカでは長期金利が上昇傾向にあり、これにつられる形で日本の長期金利はじりじりと上がっています。
長期金利上昇のもう1つの理由は物価が上振れて推移していることです。
日銀が31日に公表した展望レポートでは、今年度から3年間の物価の見通しがいずれも上方修正されました。
物価が上がると資金需要が高まり、金利は上昇すると考えられています。
企業の価格転嫁の動きが進み円安や原油高が物価を押し上げる中、この影響で長期金利の上昇圧力も高まっています。
日銀の内田副総裁は、ことし8月の記者会見で長期金利が1%の水準になれば必ず公開市場操作で金利の上昇を止めるという考え方を示しましたが、このように日銀は長期金利が1%の上限に達した場合国債を無制限に買い入れて金利の上昇を厳格に抑えるとしていました。
しかし長期金利が上限の1%に迫る中、金利を無理に抑え込もうとすると為替の過度な変動を招くリスクがあるほか市場が本来形成する金利の利回り曲線にゆがみが生じ副作用が高まるおそれもあると判断し、今回、金融政策の運用を柔軟化した形です。
経済同友会代表幹事「ノーマライゼーションに一歩前進」
日銀が金融政策の運用をより柔軟化することを決めたことについて、経済同友会の新浪代表幹事は31日の記者会見で「柔軟性というのは市場メカニズムなわけで、それをある程度入れておこうということで、ノーマライゼーションに向けて一歩前進だと評価したい」と述べました。
そのうえで「今までの金融緩和策をすぐに緩めることではないと理解しているが、『そういう将来がある』と、徐々に市場に対してメッセージを出していると思うので、準備をしていかないといけない」と述べ、大規模な金融緩和策の変更にも備えていくべきだという考えを示しました。
鈴木財務相「政府と連携をし 適切な金融政策を」
日銀が金融政策の運用をより柔軟化することを決めたことについて、鈴木財務大臣は31日夜、記者団に対し「金融市場において円滑な長期金利を形成するため日銀には引き続き、政府と連携をして適切な金融政策をしっかりやっていただきたい」と述べました。
また、決定会合のあと、外国為替市場で円安が進んだことについては「為替はいろいろな要因で決まる。今回の措置が反映されて今の水準になっているということは一概には言えない。ファンダメンタルズ=経済の基礎的条件に基づいて、物価や国際収支、それに市場関係者の心理などさまざまな要因で決まるものだ」と述べました。
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