岸田文雄首相は所得税減税に意欲を見せる一方、消費税の減税については「考えていない」と発言している。消費税の減税を考慮しない理由は何か。消費減税の実施は難しいことなのだろうか。
消費税については「社会保障目的税なので、減税はできない」ともいわれるが、社会保障には一般財源の繰り入れもできるので、減税しても社会保障財源が困ることもない。
消費税は先進国ではほぼどこにでもあるが、社会保障目的税なのは日本だけだ。それが理由ならば他の先進国並みに国・地方の一般財源として、他の先進国と同様に消費減税を経済状況に応じて行えばいいだけだ。
「消費減税すると、商品の買い控えなどで社会が混乱する」という話もあるが、他の先進国ではそうした話が深刻であるとは聞いたことがない。ちなみに、ドイツや英国もコロナ危機の際、飲食、宿泊、娯楽業界の付加価値税の時限的引き下げが行われている。
それにしても、消費税が社会保障目的税だという「財務省の罠(わな)」にはまっているのは情けない。旧大蔵省も1990年代までは「消費税は社会保障目的税ではない」と主張していた。しかし、99年の自民党、自由党、公明党の「自自公連立」時に、大蔵省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。ただし、2000年度の政府税制調査会答申では「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」と書かれている。
社会保障論からみれば、消費税を社会保障目的税化とするのは間違いだ。社会保障は、日本を含めて給付と負担(保険料)の関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多いが、日本のように消費税を社会保障目的税とし、税金が半分近く投入されている国はない。税の投入が多いと、給付と負担の関係が不明確になるからだ。
もし、日本でも他の国と同様に消費税が社会保障目的税でなければ、消費税を減税できないという恫喝(どうかつ)まがいの暴論は出てこないだろう。
なお、給付と負担が不明確になると社会保障費は膨らむ恐れがある。この社会保障論からも、消費税を社会保障目的税とせずに、保険料で賄うほうが望ましい。保険料は究極の社会保障目的税だ。
ちなみに、保険料といってもその法的性格は税と同じで強制徴収で、世界では社会保険「税」として、税と同じ扱いである。ただ、世界の常識になっている「歳入庁」が日本にはない。先進国では珍しいことだ。
財務省にとって、消費税が社会保障目的税であることと歳入庁がないことは好都合だ。
経済界も消費税が目的税であることに肯定的だ。社会保険料は労使折半なので、企業負担もある。その上、財務省が消費税の増税と法人税減税のバーター(交換条件)を持ちだすので、さらに経済界は消費増税に前のめりになる。歳入庁がないのは財務省の外局である国税庁の支配力保持に好都合だ。岸田首相の論も財務省の手のひらの上で踊っているというほかない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)