コラムニスト:リーディー・ガロウド、Daniel Moss

日本銀行は出遅れていると批判されることが多いが、金融政策決定会合の詳細公表に関して言えば、フライング気味だ。

  10月31日に開かれた会合の決定が正式発表される12時間余り前に、日銀がイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の再修正を議論すると日本経済新聞などで報じられ、その後に同報道が事実だと裏付けられた。

  実際、第4の権力であるジャーナリズムはますます複雑化する日銀の決定を発信する好ましい手段になっているようだ。まだ審議中にもかかわらず、金融政策決定会合の実質的な詳細がまずメディアで報じられたケースは、植田和男総裁就任以降に開かれた計5回の会合のうち3回に上る。

  4月のフォワードガイダンス(先行き指針)見直しや7月のYCC修正、そして今回のYCC再修正と、植田日銀から何らかの発表があった際、こうした情報が最初に示されたのはいずれも公の場ではなく、日経の紙面だった。

  これはささいなことではない。世界3位の経済大国のマネーセンターを巡るガバナンス(統治)の問題だ。中央銀行の決定は巨額の資金を動かす可能性があり、日銀が出す結論のインパクトは特に大きい。かつては金融政策決定の周辺部分に過ぎなかったコミュニケーションの重要性はこの20年で増している。センシティブな情報の選択的開示は世界の主要中銀の一角にはふさわしくない。

独特な状況

  明確にしておくと、日経の報道とそのタイミングは米連邦公開市場委員会(FOMC)や他の主要中銀の会合が開かれる1週間前や数日前によく見られる前触れ記事などとは異なる。こうしたプレビューは、日銀について定期的に見られるこれほどまで具体的な報道を含むことはめったになく、実際の会合が開かれているタイミングで記事が掲載されることもない。その意味で現在の状況は独特だ。

  こうした情報がどこから漏れているのかは分からない。これは観測気球ではないかという説が一つある。変更が近づいているという見方に市場を慣れさせるための手段であり、英国のニュースアンカーがエリザベス女王の死去を発表する前に黒い服に着替えていたことを想起させる。潜在的に悪いニュースの国内メディアへの選択的な開示は、企業の取締役会や日本の他の機関にとっては常套(じょうとう)手段にもなっている。

  別の説明として、日銀内のどこかから上層部も知らずに漏れたという見方もできる。日銀がコミュニケーション上の問題か、セキュリティー問題のいずれかを抱えているということになる。最終的にマイナス金利の解除を公表するときに、公式発表ではなく、国内メディアに情報が漏れる形で明らかになるような状況を日銀は望むのか。

  意図的に漏らしたとすれば、裏目に出ているように見受けられる。今回の会合が始まる前、日銀は大半が予想していたよりもタカ派的な姿勢を示していた。日経報道後、トレーダーは恐らく長期金利の事実上の上限を1.5%に設定するなど、もっと急激な転換を見込んでいたもようで、今回の日銀による曖昧な言い回しをハト派的な動きだと解釈した。会合後は一段と円安が進み、日本の当局が為替介入を余儀なくされるリスクがさらに高まるという結果になった。

  非公開情報の開示にはリスクが伴い、その分影響も大きくなり得る。メドレー・グローバル・アドバイザーズに米金融当局の機微な情報が許可なく漏らされた疑いを巡る捜査は数年続き、連邦捜査局(FBI)もこれに加わった。2017年に当時のリッチモンド連銀のラッカー総裁はメドレーのアナリストがすでに入手していた情報を確認したに過ぎないと示唆していたものの、結局は辞任に追い込まれた。

マイナス金利導入時も

  日銀には前例がある。16年1月の金融政策決定会合では正式発表のわずか数分前に、当時の黒田東彦総裁が直前まで否定していたマイナス金利の導入が迫っていると日経が報じた。この件の衝撃はあまりに大きく、日銀が調査に乗り出すほどだった。同調査で判明したことは多くなかったが、関係閣僚への説明のためこの決定会合が一時中断されていたことを踏まえると、日経が報じた情報がもたらされた可能性のある場所は日銀以外にも幾つかある。

  日銀を今後待ち受ける重大な決定の一つが16年1月の会合で導入を決めたマイナス金利の解除だ。そもそも金融政策運営の決定事項に関して正式な発表時間さえ示されていないのは問題で、先進国中銀では日銀くらいだ。選択的に情報が開示される一方、日経のウェブサイトを更新し続けさせて世界を待たせるべきではない。被害が大きくなる前に、情報漏れが続いている件に関して日銀は自問しなければならない。

(リーディー・ガロウド、ダニエル・モス両氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:BOJ Leaks Are Making an Awful Mess: Reidy & Moss(抜粋)

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