伊藤純夫、藤岡徹
→景気悪化への備えも重要、3・4月に「出口迎えてもおかしくない」
→財政規律は大規模緩和で緩み、市場金利前提に政府の責任で対応を
吉川洋東京大学名誉教授は、日本経済がインフレの状態にある中で、日本銀行は金融政策を正常化すべき局面にあるとし、金利上昇が日本の財政に与える影響にも忖度(そんたく)すべきではないとの見解を示した。
日銀参与の吉川氏は27日のインタビューで、消費者物価がほぼ2年間も日銀の2%目標を上回る現状は定義に従えばインフレだとし、異次元と言われる金融緩和を「続ける状況ではない」と指摘。「当然、正常化すべき時だ」とした上で、経済・物価情勢に大きな異変がない限り、3月もしくは4月に「出口を迎えてもおかしくない」と語った。
国会の議決が必要な財政政策に比べ、金融政策は「究極の機動性を有している」が、現在は「重くなっている印象が拭えない」という。景気循環なども踏まえれば、金融政策の後押しが必要な局面がやがて来るとし、「それに備えることも重要であり、常に動かせる状態であるべきだ」との見解を示した。
植田和男総裁や内田真一副総裁の政策変更に向けた前向きな発言を受けて、3月か4月の金融政策決定会合での正常化観測が市場で強まっている。植田総裁の盟友として知られる吉川氏は今後の景気悪化に備える必要性があることも指摘し、日銀に早期の正常化を促した格好だ。
吉川氏は昨年4月に就任した植田総裁とは東京教育大学(現筑波大学)付属駒場高校、東大の同期。同年5月から日銀参与を務める。植田体制の政策正常化に向けた取り組みは「世の中にも理解されている」とし、「ここまで来たらあと一歩だ。清水の舞台から飛び降りるということではなく、今の状況を踏まえて出口に向かえばいい」と後押しした。
1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比2.0%上昇と、22カ月連続で物価目標の2%以上を維持した。日銀が目標実現を見極める上で注目する今年の春闘では、連合が3月15日に第1回回答集計を公表する。日銀は同月18、19日に次回会合を開催する。
吉川氏は、この間のインフレによって食料品の価格が大きく上昇するなど「元々格差が大きい中でエンゲル係数が上がった。分配上の悪い影響がはっきりとあった」と分析。日銀が目指す賃金と物価の好循環に関しては、言わんとすることは理解するが、われわれにとって幸福なのかは分からないと語った。
財政制度等審議会会長や経済財政諮問会議議員、政府税制調査会委員などの要職を歴任した吉川氏は、これまでの大規模緩和で「財政規律は緩んだ」と指摘。利上げ局面では国債費など財政にも影響を与えるが、「金融政策が財政に与える影響を考慮したり、忖度すべきではない」とし、財政は市場金利を所与として政府が責任を持って対応すべきだと強調した。
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