記者会見する大川原正明社長(左から2人目)ら(1月11日、東京・霞が関で)=杉本和真撮影

記者会見する大川原正明社長(左から2人目)ら(1月11日、東京・霞が関で)=杉本和真撮影

 生物兵器の製造に転用可能な精密機械を不正に輸出したとして逮捕された後、起訴が取り消された会社社長らが国家賠償を求めた訴訟で、原告側は29日、警視庁公安部の複数の捜査メモを新たな証拠として東京高裁に提出した。メモには、機械が輸出規制の対象にならないとの懸念を示す経済産業省側の発言が記されており、原告側は「公安部が経産省の見解をねじ曲げた」と主張している。

 原告は、精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長(74)ら。昨年12月の1審・東京地裁判決は公安部の逮捕と東京地検の起訴を違法と認定し、東京都と国に計約1億6000万円の賠償を命じた。ただ、原告側は「公安部が立件のために輸出規制要件を不合理に解釈した」とする主張を退けられたため控訴し、被告側も控訴している。

 原告側が新たに証拠提出したのは、公安部が2017年10月~18年2月に経産省側と行った13回分の打ち合わせメモ。作成者とみられる公安部捜査員の階級と名前が記されている。

 メモによると、経産省の担当者は当初、輸出を規制した省令について「規定があいまいで、解釈もはっきり決めていない」などと述べ、「機械は規制の対象」とする公安部の見解に否定的な意見を伝えていた。

 だが、打ち合わせが進むと、経産省側は「ガサ(捜索)をやること自体は悪いことではない」と理解を示した。メモには「公安部長が盛り上がっているというのは耳に入ってきている」との同省担当者の発言も記されていた。原告側はメモとともに高裁に提出した29日付の控訴理由書で「公安部は不当な働きかけで経産省の方針を転換させた」と訴えている。

 原告側は東京地検の担当検事も捜査メモを確認していたとし、引き継ぎを受けて大川原社長らを起訴した検事も経産省の見解の変遷に容易に気づいたはずだと指摘している。

 検事への相談内容を記したメモによると、起訴担当検事は起訴直前の20年3月、「犯行当時、判断基準がなかったというのが通るのであれば起訴できない」と公安部に不安を述べていた。原告側は「経産省が明確な解釈を持っていないことを知りながら漫然と起訴に及んだ」とも主張している。

 被告側は高裁でも逮捕と起訴の妥当性を訴えるとみられる。控訴審の第1回口頭弁論は6月5日に開かれる予定。