アカデミー賞のW受賞に触発されて2作品を観てきた。午前中に「君たちはどう生きるか」、午後一番で「ゴジラ−1.0」。久しぶりの映画館で2作品を一挙に鑑賞した。両作品とも「すばらしい」のひと言。日本映画が世界に通用する現実を改めて実感した。宮崎駿監督の「君たちは・・・」は観念的でやや難解な作品。映画を論評する資格はまったくないが、この作品のテーマは映画監督としての宮崎氏の生き様かなー、そんな気がした。タイトルを「君たちは・・・」ではなく「俺は・・・」に変えれば、映画監督としての宮崎氏の葛藤が見えてくる。映画に限らず小説も絵画も音楽も、作品はみな芸術家の内面を映し出す手段だとすれば、この作品を通して敬愛した高畑勲監督亡きあとの宮崎氏の監督としての生き様が伝わってくる。いったん監督の引退宣言をしたあと、「どうしてももう一本撮りたい」と言って監督に復帰した同氏のこれは“遺言”かも。
「ゴジラ・・・」はアカデミー賞「視覚効果賞」に輝いた作品。日本人はもとよりアジア映画全体を通してもこの賞の受賞は初めてという快挙だ。少人数、かつ少ない予算でハリウッド映画に対抗できたという点で、今回の受賞はまさに“快挙”と言っていいだろう。日本のエンタメもここまできたか、映画ファンでもないのにものすごく嬉しくなった。それ以上に映画を見ながら胸が熱くなった。V F X と実写を組み合わせた映像の素晴らしさはその通りだが、それと同時にこの映画のシナリオがすごく良かった。神木隆之介演じる敷島浩一は特攻隊崩れのパイロット。逃げて、逃げて、逃げまくる人生。なんの因果かその敷島が核の落とし子であるゴジラとの対決に直面する。終戦後ふとしたきっかけで浜辺美波演じる大石典子と出会う。NHKの朝ドラ「らんまん」の黄金コンビだ。この2人の人生模様と獰猛で凶暴で、手の施しようのないゴリラの破壊力が折り重なりながら映画が進む。
2つの映画のラストがまた良い。「君たち・・・」は異世界に迷い込んだマヒト、キリコ、青さぎが現実世界に戻るところでラストを迎える。一方のゴジラ。特攻隊さながら敷島が、命を代償にした突撃でゴジラを海中に沈める。逃げまくった敷島の終わらなかった戦争が終わった途端、スクリーンが静寂に包まれた。ゴジラ退治の喜びと突撃した敷島への思いが交錯しながら、一瞬、スクリーンも映画館もいいようのない沈黙に包まれる。予想通りのエンディング、と思った瞬間、ここから本当の終幕が始まる。そうか、だからマイナス1.0なのか。タイトルの意味がここまできてようやくわかる。エンターテインメントはこうあって欲しい。2作品ともラストシーンで個人的な願いを叶えてくれた。日本映画は世界に通用する。V F Xによる視覚効果だけではない。作品自体が世界に評価された。映画界だけではない。八方塞がりに陥っている日本の可能性を示した気がする。