[ワシントン 15日 ロイター] – 潜在成長率を上回るペースで成長を続ける米経済は世界経済を支える重要な柱だが、長引くインフレと金融引き締めの波及効果は、世界経済の「ソフトランディング(軟着陸)」に新たなリスクをもたらす恐れがある。
国際通貨基金(IMF)と世界銀行(世銀)は今週、ワシントンで春季総会を開催する。米国の驚くべき成功は労働供給や生産性の向上といった建設的な要因によるものか、それとも巨額の財政赤字が需要をあおりインフレを引き起こしているからかーー。この問題が短期的な世界経済の見通しの焦点になるかもしれない。
一つの答えは、米シカゴ地区連銀のグールズビー総裁が「黄金の道」と名付けた力強い成長とインフレ率の低下が同時に存在する道を支持するものだ。これは米国だけでなく、為替レートや貿易を通じて米国と結びついた他の国々でも起きている。
もう一つの答えは困難な道を指し示しているかもしれない。米国のインフレ率が低下するには需要が強すぎると米連邦準備理事会(FRB)が判断し、利下げを先送りしたり、場合によっては利上げを再開したりする場合だ。
第1・四半期はインフレ率が目標の2%を大きく上回った。アトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDPナウ」によると、第1・四半期の国内総生産(GDP)は2.4%と潜在成長率を上回っており、FRB幹部は利下げ開始時期について言葉を濁している。
米リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は先週「インフレに関してはまだ望ましい状況にはない」と述べた。
3月の雇用統計は非農業部門雇用者数が前月比30万3000人増加した。これはインフレを引き起こさないとされる水準の2─3倍に当たる。直近の物価指標ではインフレの鈍化傾向が反転したことが明らかになり、FRBが注視するインフレ期待のデータでも進展が停滞していることが示された。
このデータを市場はすぐに反映し、FRBの利下げ見通しは修正された。コロナ禍後の世界的なインフレと金融引き締めは収束に向かうのか、それとも米国の状況がはっきりするまで様子見なのかがIMF・世銀関連会合の焦点となりそうだ。
IMFは16日に最新の世界経済見通し(WEO)を公表する。
<海外からの視線>
最近の米国の指標はすでに海外に影響を及ぼしている。
11日の欧州中央銀行(ECB)理事会後のラガルドECB総裁の記者会見では、米国でインフレが続いた場合、ユーロ圏の金融政策がFRBの政策からどの程度離れることができるかという点に質問が集中した。他の中銀当局者は米国のインフレへの取り組みが長期化すれば、政策が制限されることを明言している。
リスクバンク(スウェーデン中央銀行)のヤンソン副総裁はFRBが6月ごろに利下げできるかだけでなく、1年間の金融政策全体が問われていると指摘。FRBが利上げの必要性を検討しなければならない可能性は「ゼロではない」と記者団に述べた。
FRBの政策金利が過去四半世紀で最も高い水準である中での力強い成長は、金融政策の影響が現れるのが遅れているだけで急減速が近いのか、労働参加や生産性といった要素が改善したのかという疑問を生んでいる。
<高まるリスク>
米議会予算局(CBO)は最近、移民の増加と労働生産性の上昇を理由に潜在成長率の見通しを引き上げた。
この2つ要因が昨年の物価上昇ペースを驚くほどの速さで低下させ、一部で「完全なディスインフレ」と呼ばれる道を開いたことをFRB当局者は認めているが、その効果がどの程度まで及ぶかは不透明だ。
インフレ率を目標まで引き下げるには経済が強すぎる、あるいは金融情勢が緩和的すぎるとFRBが判断すれば、米経済が世界経済をけん引する現在の状況が一変し、世界経済を圧迫する可能性がある。
ハーバード大学教授でピーターソン国際経済研究所非常勤シニアフェローのカレン・ダイナン氏は「FRBは様子見モードに入っている」と見方を示し、今年は0.25%の利下げ1回のみになると予想した。
より引き締め的な政策により需要が鈍化し米経済が減速する公算が大きいとし、インフレの問題が続く限りより悪い結果を無視することはできないと指摘。「これはまさにソフトランディングの予測だが、米国と他の国々でリセッション(景気後退)のリスクがやや高まっていると思う」と語った。