厚生労働省が9日発表した3月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比2.5%減だった。減少は24カ月連続で過去最長だった。給与総額は伸びているものの、物価高に追いつかない状態が続いている。
実質賃金の減少幅は2月のマイナス1.8%から拡大した。24カ月連続のマイナスはリーマン・ショック前後を超えて、比較可能な1991年以降の記録で過去最長を更新した。
5月下旬公表予定の23年度の実質賃金も2年連続で前年度比マイナスとなる公算が大きい。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は増加が続き、3月は前年同月比0.6%増の30万1193円だった。伸び幅は2月から0.8ポイント低下した。
基本給にあたる所定内給与は1.7%増、残業代など所定外給与は1.5%減だった。
賞与など特別に支払われた給与は9.4%減だった。23年3月は伸びが大きく、その反動が出たとみられる。
1人当たりの総実労働時間は2.7%減の136.2時間だった。一般労働者は2.6%減の161.2時間、パートタイム労働者は2.0%減の79.7時間だった。
現金給与総額を就業形態別でみると、正社員など一般労働者は0.8%増、パートタイム労働者は2.5%増だった。産業別では金融・保険、生活関連サービス、情報通信の伸びが目立った。飲食サービス等が前年同月比で大きく減少した。
実質賃金の算出に用いる持ち家の家賃換算分を除く消費者物価指数は3.1%上昇だった。
2024年の春季労使交渉(春闘)では高い水準の賃上げが実現している。連合が8日に公表した第5回集計結果によると、ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率は平均5.17%だった。23年同時期を1.5ポイント上回り、過去の最終集計と比べると1991年以来の高水準だった。中小組合でも4.66%と、92年以来の高水準となった。
厚労省の担当者は「4月分から(今年の)春闘の実績が反映され始める」と説明する。
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※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
- 永浜利広第一生命経済研究所 首席エコノミスト分析・考察
- 昨年度は30年ぶりの賃上げが実現したにもかかわらず、実質賃金のマイナスが続いている背景には、春闘の賃上げ率がマクロの賃金に及ぼす影響がそこまで大きくないということでしょう。 実際、昨年の春闘賃上げ率は最終集計で3.6%でしたが、昨年の名目賃金は+1.2%しか上がってません。 また、賃上げにおいてはとってつけたように中小企業への波及が語られますが、よりカバレッジの広い昨年の賃金構造基本統計調査によれば、中小企業の所定内給与が+2%以上増えている一方で、大企業はむしろ▲0.7%減っています。 こうしたことから、今年の賃上げ率は5%を超えそうですが、実質賃金がプラスになるかは微妙だと思います。2024年5月9日 8:44142
- 小野亮みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル別の視点
- サンプル数は減りますが、景気指標としての基調的な賃金の動きを捉えるには共通事業所ベースでみるのが適切。そうすると賃金の伸びは前年比2.2%と”健闘”。”健闘”と評価する理由は、コロナ禍前は1%に達すること自体が稀だったから。コロナ禍を機にレジームシフトが生じているようで、2021年には1%を挟んで推移、2022年には1%超えが定着し始め、春闘の結果が1996年以来の3%台になった2023年には賃金の伸びが加速。結果、足元の賃金の伸びは2022年平均(前年同月比の平均)と比べて1%ポイント上回っています。今年の春闘の結果は記事が報じるように来月発表分から反映されますから先行きが楽しみです。2024年5月9日 14:4115
- 上野泰也みずほ証券 チーフマーケットエコノミストひとこと解説
- 多くの会社にとり23年度最終月である24年3月の賃金動向は非常に弱かった。実質賃金は連続減少記録を更新。ベアが反映される所定内給与は前年同月比+1.7%で、うち一般労働者は同+1.9%。23年3月はそれぞれ+0.5%、+1.2%だったので、1年が経過して23年春闘での高率賃上げが反映されてはいる。だが、おそらく時短も影響し、所定外給与は4か月連続減少。ボーナスが含まれる特別給与は2か月連続減少である。それらを合算した現金給与総額が前年同月比+0.6%に伸びを鈍化させたことから、物価動向を勘案した実質賃金は同▲2.5%にマイナス幅を拡大した。24年春闘の結果をうけて今後どこまで持ち上がるか注視。2024年5月9日 9:0742