Rita Nazareth
- 米消費者マインドが6カ月ぶり低水準、1年先のインフレ期待は上昇
- FRB当局者からは高金利長期化を示唆する発言が相次いでいる
10日の米株式市場でS&P500種株価指数は小幅続伸。ただ、インフレ圧力の根強さと景気減速を示唆する経済指標を受け、上値の重い展開となった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 5222.68 | 8.60 | 0.16% |
ダウ工業株30種平均 | 39512.84 | 125.08 | 0.32% |
ナスダック総合指数 | 16340.87 | -5.39 | -0.03% |
S&P500種は週間ベースでは3週連続上昇。2月以来の長期連続高となった。
午前10時に発表された5月の米ミシガン大学消費者調査では、消費者マインドが6カ月ぶりの低水準に落ち込み、1年先のインフレ期待は上昇した。景気減速感が利下げへの期待を後押しする一方、金融当局者からは高金利の長期化を示唆する発言がこの日も相次いだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は、今年に入りインフレの根強さを示す指標が続いている点を指摘し、年内に利下げを開始することが適切になるとは思わないとの考えを示した。
LPLファイナンシャルのジェフリー・ローチ氏は「米金融当局は物価安定と経済成長という2つの責務のバランスを取りながら綱渡りしている」と指摘。「当社では『スタグフレーション』のリスクが高まっているとみている。それがわれわれの基本シナリオではないが、市場が対処しなければならない懸念ではある」と述べた。
ミシガン大消費者マインド指数(速報値)は67.4と、前月の77.2から低下し、6カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。1年先のインフレ期待は3.5%に上昇し、6カ月ぶり高水準となった。
米消費者センチメント急低下、インフレ期待上昇-ミシガン大調査
インディペンデント・アドバイザー・アライアンス(IAA)のクリス・ザカレリ氏は、今年に入ってインフレ統計に多くの関心が集まってきたが、経済を支えている主な柱が個人消費であることを忘れてはならないと指摘。
「予想を下回った消費者センチメントは、消費を当然の前提として考えるべきではないという警告のサインだ」とし、「インフレ期待も上昇しており、これは米金融当局にとってはダブルパンチだ」とリポートに記した。その上で、消費が減速してインフレ率が上昇すれば「多くの人が望んでいたようなゴルディロックス的シナリオの逆に向かうことになる」と述べた。
ブック・リポートの著者でブリークリー・ファイナンシャル・グループの最高投資責任者(CIO)、ピーター・ブックバー氏は今回のミシガン大消費者調査について、高金利が長期化する中で耐久財の購入意欲を示す指数が1年ぶりの低水準に下がったことを指摘。「米金融当局が積極的な利上げを行っていた数年前に抱いていた懸念を私は今も抱いている。利上げで経済がすぐに大きく落ち込むというよりも、じわじわと弱っていくということだ」と語った。
米国債相場は下落。10年債利回りは約5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%上昇した。スワップ市場は今年11月までの1回の利下げと、来年1月までの追加利下げを完全に織り込んでいる。
国債 | 直近値 | 前営業日比(BP) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.64% | 3.4 | 0.74% |
米10年債利回り | 4.50% | 4.5 | 1.02% |
米2年債利回り | 4.87% | 5.2 | 1.08% |
米東部時間 | 16時38分 |
バンク・オブ・アメリカ(BofA)の顧客調査によると、パウエルFRB議長が追加利上げの可能性は低いとの考えを示したことを受けて、米長期債への投資意欲が大きく高まっている。
デュレーション長期化に対する投資家の意欲を測る指標はここ1年で最も高く、BofAが2011年に調査を開始して以来の最高水準に近づいている。調査は米連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の5月3ー8日にかけて実施された。
ニューヨーク外国為替市場で円相場は155円台後半で推移した。市場では日米金利差を意識した円売りと、介入警戒の間で綱引きの状態が続いている。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1253.69 | 0.85 | 0.07% |
ドル/円 | ¥155.76 | ¥0.28 | 0.18% |
ユーロ/ドル | $1.0771 | -$0.0011 | -0.10% |
米東部時間 | 16時38分 |
日本銀行による0.25ポイントの追加利上げは、従来の予想より1カ月早く7月に行われると、BofAの通貨ストラテジストはみている。その次の追加利上げ予想も同じく1カ月、前倒しした。
クラウディオ・パイロン氏率いる同行の為替アナリストは、「米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げを開始する前であれば、日銀が現在の政策スタンスを維持する限り、市場は日銀を試し続ける」と10日のリポートで指摘。「日銀は同時に2つを得ることはできない。日銀が政策を引き締めるまで、市場は日銀を試し続けるだろう。当社では現在、7月の日銀利上げを予想している」とした。
さらに「ドル・円が高値を更新しないようにするには継続的な介入が必要になるだろうが、その場合でも現行レンジを超えて円が上昇するには不十分だと当社はみている。日銀はまた、政策引き締めを示唆することで、ある程度の時間は稼げる。ちょうど今週がそうだった。しかし、示唆はすぐに実行に移さなくてはならない。さもなければ市場は再び日銀を試すだろう」と続けた。
この日のドル指数は反発。週間ベースでは3週間ぶりの上昇となった。外為市場では、米金融当局が今後数カ月以内に利下げを行うかどうかの手掛かりとして、15日発表の4月米消費者物価指数(CPI)が注目されている。4月は変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数が前月比0.3%上昇と予想されている。
INGバンクのストラテジストは「ドルが大きく下がるかどうかの鍵は引き続きインフレ動向だ」とリポートで指摘。コア指数が予想通り前月比0.3%上昇となれば、米金融当局が夏に利下げを開始するにはなお高過ぎるとし、「ドルの大幅かつ持続的な下落トレンドは5月の相場ストーリーにはならないのではないか」と記した。
ニューヨーク原油先物相場は3日ぶりに下落。需給ファンダメンタルズの見通しが不透明な中、上昇の勢いが失われた。前日までの上昇について一部トレーダーは、テクニカルな水準によって支えられた部分が大きいとみている。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は一時80ドル近くまで上昇したが、結局1%余り下げて1バレル=78ドル近辺で引けた。今週の下値支持線としての役割を果たしてきた100日移動平均の約78.37ドルも割り込んだ。市場はなお、原油の在庫減と燃料需要停滞のシグナルという強弱まちまちな政府統計を消化しようとしている。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」は、6月上旬の会合で今年下期の生産量を決定する見通し。OPECプラスの決定は、原油相場を動かす次の大きな材料となる可能性がある。
アンティモのシニアポートフォリオマネジャー、フランク・モンカム氏は「OPECの動向に注目が集まっており、今後数週間はレンジ相場が続く可能性が高い」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、1ドル(1.3%)安の1バレル=78.26ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント7月限は1.3%下落の82.79ドルで引けた。
金スポット相場は続伸したがこの日の高値は離れた。インフレ圧力が根強い中で景気が減速していることがデータで示され、米金融当局の利下げ判断が難しくなるとの見方が広がった。
5月の米ミシガン大学消費者マインド指数は前日発表された米新規失業保険申請件数と合わせ、経済における重要な領域が減速していることが示された。これを受け、市場では政策緩和に対する見方が強まった。多くの政策当局者はただ、インフレ率を当局目標の2%に引き下げる上で金利を「より高く、より長く」維持する必要性を引き続き示唆している。
金スポット価格はニューヨーク時間午後3時9分現在、20.55ドル(0.9%)高の1オンス=2366.88ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は34.70ドル(1.5%)上昇の2375ドルちょうどで終えた。
原題:S&P 500 Rally Wanes Amid US Stagflation Chatter: Markets Wrap
Dollar Heads For Weekly Gain on Sticky Inflation: Inside G-10
Oil’s Rebound Falters Amid Clouded Outlook for Fundamentals
Gold Pares Gains as US Data Complicate Case to Cut Rates