Ania Nussbaum

  • 極右のRNは最多議席獲得へ-フランスの戦後史上前例のない展開
  • 党を邪悪でなく見せる「脱悪魔化」の戦略、はるかに以前から進行中
Marine Le Pen addresses supporters at the National Rally headquarters on June 30.
Marine Le Pen addresses supporters at the National Rally headquarters on June 30. Photographer: Cyril Marcilhacy/Bloomberg

今年の初めごろの調査ではフランスの有権者の50%強が、マリーヌ・ルペン氏が事実上率いる極右政党「国民連合(RN)」は民主主義に脅威をもたらすと答えた。同氏は7日の国民議会(下院)選挙決選投票で勝利を引き出そうと、そのように答えなかった残りの半分に訴える。

  RNは、絶対多数には手が届かないとみられているが、最多議席は獲得する見込みだ。過半数に届いても届かなくても、フランスの戦後史上前例のない展開であり、マクロン大統領にとっては大きな痛手となり、数年にわたるフランスの混乱につながるだろう。

France Goes To The Polls
6月30日の第1回投票で投票所に到着したルペン氏Photographer: Cyril Marcilhacy/Bloomberg

  泡沫(ほうまつ)候補から最有力候補へというルペン氏の躍進は大きな部分を、自身の政治的遺産を否定したことに負っている。父親のジャンマリー・ルペン氏はあからさまな人種差別主義のために、長い政治キャリアにおいて常に政権の座からは遠かった。娘のマリーヌ氏は分断を誘う父親の主義主張を和らげ、自身の経済政策について企業を安心させようと努めた。

  2017年までRNの副党首を務めたフロリアン・フィリポ氏は、自分が知っていたマリーヌ氏とはまるで別人だと言う。RNは「今、金融利権を受け入れている。体制に反対していたマリーヌ・ルペン氏の面影を見つけるのは難しい」とフィリポ氏はブルームバーグに語った。

  このような戦略は50年にわたる「ルペン主義」の放棄のように見えるかもしれないが、集大成でもある。ルペン一族は3世代にわたって、政治的な風向きの変化に合わせて身をかわし変身しながら、極右を主流派の領域へと導いてきた。ルペン一族は、自分たちの目的に沿わなくなった有権者へ公約であれ身内であれ、邪魔になったものは全て冷酷に切り捨ててきた。

  父親のジャンマリー氏が共同設立した党の党首になる運命にはなかったマリーヌ氏がRN党首の座に就いたのは、姉が父の追い落としを画策して失脚したからにほかならない。マリーヌ氏は党首になった後、父親をRNから追放した。

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  選挙を実施するというマクロン大統領の突然の決断の機を生かすため、ルペン氏はこれまでで最も重大な裏切りを行おうとしている。自身の過去との決別だ。実業界を取り込む策の一環として、RNはより費用のかかる政策のいくつかを放棄した。

  フランスの高速道路網の国有化と農産物の価格下限設定の計画は廃止された。定年を60歳に引き下げるという提案は、ルペン氏が10年以上前に発表してアドバイザーたちを驚かせたものだが、今はひっそりと軽視されている。

  この戦略が奏功している兆候として、フランスの実業家たちはルペン氏にチャンスを与える用意があるもようだ。先月、RNのジョルダン・バルデラ党首(28)が党の経済プログラムを発表するのを聞いていたフランス産業界のある大物は、同社の幹部らは移民労働者に敵対的な政策など企業に友好的でない政策への嫌悪感を抑える用意があると述べた。

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RN本部に集まった支持者ら(6月30日)Photographer: Cyril Marcilhacy/Bloomberg

  これは、今年初めにはフランス人の半数が外国人嫌いと評した政党を世論調査での第1党に押し上げた有権者の好みの変化を反映しているに過ぎないという。

  ルペン氏に対する投資家のスタンスを和らげるのに一役買っているのは、マクロン陣営を抜いて2位に躍進するためにかけ離れた利害を調整することに成功した左派ブロックに対するより大きな恐怖だ。モンテーニュ研究所の分析によると、選挙公約が政府支出を拡大させる度合いは、左派連合、RN、マクロン陣営の順だった。

  欧州連合(EU)が支出抑制を求めている中で左派連合はそれを無視しようとしており、左派の躍進は同盟国との緊張を高めるリスクがある。

  マクロン大統領は英国がEU離脱を選んだ後、金融関係の雇用をパリに誘致する計画を示し、その作戦はほぼ成功している。閣僚たちはライバル政党への投票が経済の混乱を招くと警告しているが、RNはここ数週間、波風を立てるつもりはないことが理解されるよう努めている。

  ルペン氏と仕事をしたことがある危機コミュニケーションのコンサルタント、アルノー・ステファン氏は「政治は考古学にこだわり続けることはできない」と述べた。有権者はRNの物議を醸す過去を気にしなくなっているという。父親のジャンマリー氏のセンセーショナルな経歴を知らない若い有権者は特にそうだ。

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ジャンマリー・ルペン氏と家族(1974)Source: AFP/Getty Images
Jean-Marie Le Pen Dancing with Daughter
政治集会で娘のマリーヌ氏と踊るジャンマリー氏(パリ、1984年5月)Photographer: Jacques Pavlovsky/Sygma/Corbis/Getty Images

  ジャンマリー・ルペン氏が社会党のライバルに暴行を加え政界から追放されたことを覚えている人は少ない。若者たちは同氏が戦時中のナチス協力者に共感していることについて年長者のようには憤りを感じず、同氏がホロコーストを歴史の「細部」だと発言したのを耳にしていない。

  このような記憶の消失は、首相候補であるバルデラ氏がジャンマリー氏のレガシーの最も好ましくない部分に新しい命を吹き込んだにもかかわらず続いていると、パリ政治学院(シアンス・ポ)の研究員、ジル・イバルディ氏は指摘する。

  「バルデラ氏は急進派で『偉大なる代替わり』理論を信じていることを公言してはばからない」とイバルディ氏。これは移民への不安をあおる白人ナショナリストに人気のある考え方だ。しかし、イバルディ氏によれば、党の変化は表面的なものであることによって効果が弱まるわけではない。バルデラ氏は「刷新を体現しており、その若さとルックスは、党を邪悪でなく見せるというマリーヌ・ルペン氏の戦略を反映している」と同氏は付け加えた。ルペン氏自身、RNの支持層拡大の取り組みを「 脱悪魔化」と呼んでいる。

National Rally Leader Jordan Bardella News Conference
RNのバルデラ党首(6月30日)Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

  このプロジェクトは、マクロン大統領がサプライズ選挙でフランスを揺るがせた後に始まったわけではない。ルペン氏に近い関係者によれば、13年前に同氏が党首となって以来、ずっと進行中だったという。

  ルペン氏の元パートナーでペルピニャンの市長を務めるルイ・アリオ氏によれば、この戦術の始まりは2002年、ジャンマリー・ルペン氏が初めて大統領選の決選投票に進出しフランスに衝撃を与えた年にさかのぼる。ルペン氏はライバルのジャック・シラク氏の4分の1以下の票しか得られなかった。

  マリーヌ氏の周囲の人々は重要な教訓を得た。この選挙は、現在の党の形では支持率に限界があることを露呈させた。このままでは主流派になれないと思ったとアリオ氏は話した。これはジャンマリー氏ら負の遺産と決別することを意味した。

Regional Elections 2004: The Results Of The 1St Round
ジャンマリー氏とマリーヌ氏(2004)Photographer: Benoit Gysembergh/Paris Match/Getty Images

  ルペン氏への支持は家計の貧しさや教育水準と相関している。しかし、そのような細かな違いを超えて、同氏への支持が全体的に広がっていることを調査は示している。今年初め、フランス人の50%強がRNを民主主義への脅威と表現したとしても、かつてよりは着実に改善していることになる。

French Protest Against Far-Right National Rally Party
人種差別と極右に抗議するデモ(6月15日、パリ)Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

  つまり、党のブランド再構築は昨日、今日に始まったものではないが、完了してもいない。同党の綱領は依然として、雇用や公営住宅に関する「国民優先」と呼ぶものを積極的に支持している。

  これらの提案は最新版ではより曖昧になっている。穏健派への歩み寄りはジャンマリー氏を激怒させ、同氏は自伝の中で末娘のマリーヌ氏とその側近たちが「悪魔が人気を集めているまさにその時に、脱悪魔化を必死で模索している」と批判している。

  その批判は公平ではない。マリーヌ氏には、かつてタブー視されていた父親の政治を大衆化した功績があると、敵も味方も口をそろえて認めている。

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投票するルペン氏(6月30日)Photographer: Cyril Marcilhacy/Bloomberg

原題:Le Pen Betrays Her Past to Capture a Bigger Prize: France(抜粋)