[ロンドン 5日 ロイター] – 4日投開票の英総選挙を受けて次期首相に就任する見通しとなった労働党のスターマー党首は、選挙運動で与党・保守党の「14年間にわたる経済の失敗」を批判してきたが、低迷する経済を手早く立て直す「魔法の杖」が次期政権にあるわけではない。
同国では保守党政権が発足した2010年以降、国民の生活水準が向上しておらず、新型コロナ後の景気回復ももたついている。
公共サービスは疲弊し、インフレが家計を直撃し、住宅が不足する中、企業マインドも冷え込んでおり、スターマー氏には労働党が圧倒的多数を占める議会を通じて、国内に漂う沈滞ムードを打破するよう求める圧力が強まるとみられる。
だが、英国の公的債務残高は国内総生産(GDP)の100%近くに達しており、国民の税負担は第2次世界大戦直後以来の高水準にある。
スターマー氏は事態を好転させるには時間がかかると強調。投票日の数日前に「国を前進させるには非常に厳しいことをする必要がある。魔法の杖はない」と有権者に語っている。
ブレア元首相率いる労働党が総選挙で保守党に圧勝した1997年は、経済成長率が5%近くに達していたが、スターマー氏は当面2%成長の達成もおぼつかない可能性がある。
今年の経済成長予測は1%未満。07─08年の世界的な金融危機、多くの分野での公共支出削減、欧州連合(EU)離脱、新型コロナ、エネルギー高騰といったショック要因が重なり、経済の重しになっている。
だが、保守党のトラス前首相が22年に財源の裏付けのない減税を発表し、国債市場の混乱を招いたことは記憶は新しく、スターマー氏も財務相に就任する見通しのリーブス氏の財務相も景気を押し上げるために無謀な借り入れをすることはないとみられる。
労働党は大規模な増税はしないと公約しており、次期政権の財源は乏しい。
資産運用会社abrdnの政治経済専門家、リジー・ガルブレイス氏は「(労働党は)厳しい財政状況を引き継ぐ。課題は山積している」と指摘する。
労働党政権は97年、イングランド銀行(英中央銀行)に金融政策運営上の独立性を付与し、金融市場を驚かせたが、次期政権の経済政策は当初は地味なものになる可能性が高い。
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計画では、住宅建設やインフラへの投資を促すため、時代遅れになった都市計画制度を速やかに改革する。生産性の向上を通じて経済成長を支え、税収を増やした上で医療など疲弊した公共サービスに投資する構想の一環だ。
スターマー氏は経済成長を阻む障壁の撤廃を進める方針も示しているが、課題は多い。
abrdnのガルブレイス氏は「次期政権が改革を約束し、政権発足後に骨抜きなることは以前にもあった」と指摘した。
資産運用会社インフラレッドのジャック・パリス最高経営責任者(CEO)は、労働党がグリーンエネルギー分野で民間投資を活用し、交通プロジェクトを加速すると予想。
「新政権の誕生で長期的なインフラ戦略が明確になり、長期投資家にとって英国が再び魅力的な投資先になるはずだ」と述べた。
<大きな効果見込めず>
スターマー氏は新型コロナ後に急増した病気による離職者への対応も進める計画だ。
ボストン・コンサルティング・グループとNHSコンフェデレーションは、20年以降の離職者の4分の3が労働市場に再参入すれば、今後5年間で最大570億ポンドの税収増が見込めると試算している。
スターマー氏はEUとの貿易障壁の一部緩和も計画しているが、EU離脱協定を大幅に見直す可能性は否定している。
エコノミストは現時点の労働党の政策について、大きな効果は見込めず、ましてや、持続可能な経済成長で主要7カ国(G7)をリードする存在になるというスターマー氏の目標達成には程遠いと分析している。
公共投資の拡大は経済成長に寄与するとみられるが、労働党が掲げる移民の削減は経済成長にマイナスになる恐れがある。
ゴールドマン・サックスのアナリストは、労働党の改革案について、25年と26年の経済成長率をそれぞれ年0.1%ポイント押し上げる効果しかないと分析している。
<政治の安定が武器に>
ただ、英国が昨年の景気後退(リセッション)から脱却し、インフレが落ち着いてきたことも事実だ。
スターマー氏は、保守党政権が相次ぐ首相の交代で混乱を招いたとし、政治的な安定が投資を呼び込む助けになると主張。この点には多くの企業経営者も同意している。
また、フランスや米国ではポピュリズムが台頭しており、投資家は英国の政治リスクが相対的に低いことに魅力を感じ始めている。
ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのポートフォリオマネジャー、ローラ・フォール氏は、そうした認識の変化が最近の英国株のアウトパフォームにつながっていると指摘。「政治的な観点から見ると、英国ははるかに良い状態にあるように見える」と述べた。