Rita Nazareth
- パウエル議長、雇用の冷え込み指摘-利下げのタイムラインは示さず
- 米国債は短期債がアウトパフォーム-パウエル議長の証言受け
米国株市場では、S&P500種株価指数が過去最高値で引けた。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の議会証言後も、年内に利下げが可能になるとの市場の見方は変わらなかった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 5576.98 | 4.13 | 0.07% |
ダウ工業株30種平均 | 39291.97 | -52.82 | -0.13% |
ナスダック総合指数 | 18429.29 | 25.55 | 0.14% |
S&P500種は6営業日続伸で、1月以来の長期連続高となった。金融株がしっかり。パウエル議長は、上院銀行委員会の公聴会で半期に一度の議会証言に臨んだ。冒頭証言後の質疑応答では、利下げのタイムラインを示すことは控えたが、雇用市場冷え込みの兆候が増えていると強調した。政府の雇用統計では、失業率が3カ月連続で上昇している。
パウエル議長、雇用市場のリスクを指摘-利下げ時期ヒント与えず
JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ氏は「きょうの発言は、引き続き市場に年内の利下げに向けた準備を促す内容だ」と分析。「経済に関するパウエル議長の発言はほぼ原稿通りで、議員からの質問の多くは経済についてではなく、銀行の資本規制に関するものだった」と述べた。
議会証言で議長は、大手銀行に求める資本増強計画の修正で米規制当局の合意が近いことを明らかにした。実際に修正されれば、ウォール街の金融機関にとって大きな勝利となる。
パウエルFRB議長、大手銀の資本増強案見直しで当局の合意近い
議会証言に関するその他の市場関係者のコメントは以下の通り:
◎ブック・リポートの著者、ピーター・ブックバー氏;
パウエル議長は経済見通しと金融当局が重視する2つの責務について、よりバランスの取れた見方を維持しているが、緩和に向けた窓は開いている。私自身は9月利下げへの確信を強めている。米国債利回り上昇は議長発言とは関係ない可能性がある。発言内容自体に目新しさはなく、欧州市場での債券売りが波及したのではないか。
◎エバコアのクリシュナ・グハ氏:
より強力な利下げシグナルを期待していた向きもあったかもしれないが、われわれは、特にリスクバランスの変化に関する議長の発言をハト派的と解釈している。今後発表されるデータ、特に11日発表のインフレ統計が金融当局の評価を下支えする内容となれば、議長は9月利下げの可能性に向けた土台作りを継続すると、われわれはみている。
◎BMOキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者イアン・リンジェン氏:
準備原稿におけるパウエル議長の発言のトーンは、このところ金融当局が2大責務における雇用の部分を重視していることと整合する。7月に利下げがあり得ることを示唆するとはわれわれは解釈していないが、9月が選択肢として残されていることは確かだ。
米国債は総じて軟調な展開。パウエル議長の証言中にはこの日の安値を付けた。議長は「さらなる良好なデータ」が見られれば、インフレ率が当局の2%目標に向けて低下しているという確信が強まると発言した。
午後に入り、堅調な3年債入札(発行額580億ドル)を手掛かりに下げを縮小。ただ欧州債が軟調な展開となり、米国債全体に重しとなった。この日は期間が短めの債券がアウトパフォーム。政策緩和が行われた際に短期債の方が恩恵を受ける可能性がより高いとの見方が背景にある。
国債 | 直近値 | 前営業日比(BP) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.49% | 2.5 | 0.57% |
米10年債利回り | 4.30% | 1.8 | 0.41% |
米2年債利回り | 4.62% | -0.6 | -0.14% |
米東部時間 | 16時41分 |
外国為替市場ではドルが堅調。パウエル議長の証言後には、米国債利回りが上昇する中でドルも一時上げを拡大した。円は下落。朝方から軟調な展開だったが、パウエル議長証言後に下げを拡大。一時1ドル=161円52銭を付けた。その後はやや下げ渋る展開となり、ニューヨーク時間午後は161円台前半で推移した。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1261.17 | 0.61 | 0.05% |
ドル/円 | ¥161.30 | ¥0.47 | 0.29% |
ユーロ/ドル | $1.0814 | -$0.0010 | -0.09% |
米東部時間 | 16時41分 |
ソシエテ・ジェネラルのスバドラ・ラジャッパ氏は「パウエル議長の発言はバランスが取れており、政策判断は『会合ごと』に行われることを示した。市場は引き続き9月の利下げを予想しているが、確実視されているわけではない。データでインフレの根強さが示されれば、その可能性は容易に傾き得る」と分析した。
ユーロは対ドルで続落。域内の株式と債券はこの日、共に軟調な展開だった。
ニューヨーク原油相場は続落。パウエル議長の議会証言を消化する中で、レンジの大きさが顕著な取引となった。
薄商いが値動きを増幅し、レンジはおよそ1ドルに及んだ。米労働市場は「かなり冷え込んできた」とのパウエル氏の発言を受けて、一時は1バレル=82ドルを超えたが、その後の発言で利下げが近いことを示唆しなかったために相場は上昇分を消した。
BOKファイナンシャル・セキュリティーズのトレーディング担当シニアバイスプレジデント、デニス・キスラー氏は「神経質な取引だ」と語った。将来の利下げについて明確な示唆が得られなかったために、トレーダーの間では高金利が長期化する可能性が懸念された。
テキサス州ヒューストンの石油設備はハリケーン「ベリル」の影響を持ちこたえ、復旧作業の進展を報告。弱気センチメントに拍車がかかった。
ブルームバーグがまとめた船舶追跡データによると、ロシアの原油輸出は7日までの1週間に減少、2022年のウクライナ侵攻前以来の大幅な落ち込みを記録した。突然に急減した明確な理由は不明だが、輸出は全ての主要港で減少した。
北半球の石油消費が夏場に増加するとの予測が原油相場を支えてきたが、超大型タンカーの利益低迷をきっかけに中国での消費があらためて懸念されている。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物8月限は前日比92セント(1.1%)安の1バレル=81.41ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント9月限は同1.3%下げて84.66ドル。
ニューヨーク金相場は小反発。パウエルFRB議長の議会証言直後は堅調を維持した。
中央銀行による金購入が市場の関心を集めている。ウズベキスタンとセルビア、チェコの中銀は金準備を拡大しており、金は中欧や東欧諸国で人気を高めている。地政学的な波乱から自国経済を守る手段として、一部の国で認識されている。
投資家は11日の米CPIに注目。来週に中国共産党が開催する中央委員会第3回総会(3中総会)も、今後の消費を左右しかねないとして関心を集めている。
金スポット価格はニューヨーク時間午後3時3分現在、前日比0.2%高い1オンス=2364.53ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は同4.40ドル(0.2%)上昇し2367.90ドルで引けた。
原題:S&P 500 Posts Longest Winning Run Since January: Markets Wrap(抜粋)
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