By 山口貴也杉山健太郎

焦点:日銀利上げ、円安にらみ政権・与党内で議論百出 なお残る慎重論

[東京 24日 ロイター] – 日銀の追加利上げを巡り、政権・与党内で議論が百出している。現職閣僚に続き、党幹部からも円安への危機感から利上げに前向きと受け止められる言及があった。一方、拙速な利上げになお慎重な声も残り、日銀が30、31日の金融政策決定会合でどう判断するかは、これまで以上に注目の度合いを増している。

<円安で被る痛手>

発端となった17日のブルームバーグとのインタビューによると、河野太郎デジタル担当相は「円の価値を高め、エネルギーや食料品のコストを引き下げるために政策金利を引き上げるよう日銀に求めた」とされる。

河野担当相は19日に「今、日銀に対して利上げを直接求めているわけではない」と釈明したが、為替市場で円高要因として材料視された。

自民党の茂木敏充幹事長が発した利上げに関する言及も、日銀に対する異例の注文として波紋を呼んだ。時事通信によると、茂木幹事長は22日に都内で講演し、「段階的な利上げの検討も含め、正常化する方向で着実に進める方針をもっと明確に打ち出すことが必要だ」と述べた。

円安への危機感を強める背景には、家計の所得環境改善にブレーキがかかりかねないという懸念がある。円安が続き、コストプッシュ型のインフレが再燃すれば、「好循環実現」をうたう政権にとっても痛手となる。

年初からの円安は、ピーク時の変動率が一時15%を超えた。内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルによると、為替が10%円安に振れれば消費者物価が0.2%程度押し上げられるという。

「日銀の物価見通しは実際より0.数%ポイントほど低く出やすい。手遅れになる前に(利上げの)道筋を付けるべきだ」(中堅幹部)との声も、与党内にはある。

<外圧が足かせに>

とはいえ、拙速な利上げには慎重論もくすぶる。

実質国内総生産(GDP)のうち、直近までの個人消費は4四半期連続のマイナスだった。これだけマイナスが続くのはリーマン危機時の2008年4―6月期から09年1―3月期以来で、「消費は力強さを欠いている。利上げを急げばかえって景気を冷やしかねない」と、政府関係者の1人は語る。

好循環のカギを握る価格転嫁ができていない中堅・中小企業も少なくない。「いずれ必要となる利上げに反対するつもりはないが、タイミングは重要」と、別の関係者は言う。

議論が百出する背景には、9月までに行われる党総裁選を控えているという側面もあるが、首相周辺からは「牽強付会に7月(に利上げ)だ、9月だという話にするのはおかしい。そこは日銀自身が判断する話」との声が聞かれる。河野、茂木両氏は、いずれも総裁候補に取りざたされる。

要人発言に先立つ今月初旬には「国債買い入れの減額計画と同時に、利上げを実施するのではないか」(銀行関係者)とみる向きもあった。

ただ、足もとでは「現職閣僚や与党の有力者から露骨に利上げを求められ、仮に7月に利上げすれば従属感が強まる。直後は、逆に動きづらくなる」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミスト)との声が浮上。利上げを促す外圧は、かえって日銀の手足を縛る要因になるとの見方も出ている。