Rita Nazareth

  • 非農業部門雇用者数、3カ月平均では2020年半ば以来の低い伸び
  • 米雇用統計、9月利下げ幅の決め手にならず-市場で議論活発化
Wall Street traders digest latest US jobs report.
Wall Street traders digest latest US jobs report. Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

6日の米株式相場は下落。S&P500種株価指数は週間ベースでは2023年3月以来の大幅安となった。8月雇用統計を受け、景気の冷え込みに対して米金融当局が後手に回っているのではないかとの懸念が再燃した。  

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数5408.42-94.99-1.73%
ダウ工業株30種平均40345.41-410.34-1.01%
ナスダック総合指数16690.83-436.83-2.55%

  ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのスコット・レン氏は「金融市場の関心は、米金融当局がどの程度の緩和を進めていくか、景気がどの程度のペースで減速するかに移っている」とし、「短期的にボラティリティーは続くだろう」と語った。

  8月は非農業部門雇用者数が前月比14万2000人増と、市場予想を下回る伸びにとどまった。3カ月平均では2020年半ば以来の低い伸び。失業率は4.2%と、5カ月ぶりに低下した。一時的なレイオフ増加の流れが反転したことを映している。

米雇用者数の伸び、市場予想に届かず-利下げ幅巡る議論活発化へ 

  「8月の雇用統計では、景気の糸が切れて変曲点に近づきつつある状況が引き続き描かれた」と、TSロンバードのスティーブン・ブリッツ氏は指摘。「変曲がリセッション(景気後退)につながるか、そこまで悪くはならないかは、米金融当局が現在の負のモメンタムにどれほど積極的に対抗できるかにかかっている」と述べた。

  市場関係者の間では、予想される米利下げがどの程度の幅になるかを巡ってさまざまな見解が示されている。

【米雇用統計】9月利下げ幅の決め手にはならず-市場関係者の見方

   米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事はこの日、労働市場にはさらなる軟化のリスクが増えており、連邦公開市場委員会(FOMC)が今月の会合で利下げを開始することは重要だと述べた。

ウォラーFRB理事、大幅利下げの可能性に「オープンマインド」 

  同理事の発言について、エバコアISIのクリシュナ・グーハ氏は、9月に25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)で利下げを開始し、雇用へのリスクが高まれば11月またはそれ以降の会合で50bpに加速する用意があることを明確に示したと指摘。「これは最悪のアプローチではない。しかしリスク管理という点では、まだ十分に前のめりではない。従って、市場にとって『リスクフレンドリーではない』というのが当社の見解だ」と語った。

  米国債相場は雇用統計や金融当局者の発言に敏感に反応する展開。2年債利回りはウォラーFRB理事の発言後、15ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下する場面もあった。金利スワップ市場ではウォラー氏の発言を受け、9月FOMC会合での50bpの利下げを織り込む動きが一時強まったが、そうした動きは再び失速した。

国債直近値前営業日比(BP)変化率
米30年債利回り4.03%0.90.22%
米10年債利回り3.72%-0.6-0.15%
米2年債利回り3.66%-8.3-2.21%
  米東部時間16時32分
Treasuries Whipsaw After Jobs Report

為替

  外国為替市場ではドルが方向感の定まらない展開となった。雇用統計を受けた市場では、9月FOMC会合でどの程度の利下げが行われるかについて見解が割れている。

  「雇用統計前に市場はドルのショートに傾き過ぎていた」と、 ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのブラッド・ベクテル氏は指摘。ドル上昇はショートポジションの「買い戻しによるものだ」と述べた。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1231.861.120.09%
ドル/円¥142.35-¥1.10-0.77%
ユーロ/ドル$1.1087-$0.0024-0.22%
  米東部時間16時32分

  ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)の通貨戦略グローバル責任者ウィン・シン氏は「今週は製造業非製造業での価格指数上昇など、インフレ面で一部に上振れサプライズがあった。雇用統計でも平均時給の伸びが加速した」と指摘。「来週の消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)は脇役のような扱いになっていたが、9月の利下げ幅が0.25ポイントになるか0.5ポイントになるかを決める要因になるかもしれない」と述べた。

  円も不安定な値動きとなった。雇用統計発表前には1ドル=143円台前半で推移していたが、発表直後には142円01銭まで上昇。その後、143円台後半まで下げる場面もあったが、再び買いが優勢になると141円78銭を付けた。

ドル・円相場
出所:ブルームバーグ

  三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のアナリストは、対円でドルをショートにすることを推奨している。リー・ハードマン、アブドゥルアハド・ロックハート両氏は「FOMCが早ければ今月に0.5ポイントの大幅利下げを決定して緩和サイクルをスタートさせると決まったわけではないが、最近の弱い雇用の伸びは、大幅利下げが必要になるのは時間の問題だという当社の見方を裏付けている」とリポートで説明した。

  円には一段の上昇余地があると、アムンディのチーフストラテジストはみている。円キャリートレードの解消は今後も続くとの見方だ。アムンディ・インベストメント・インスティテュートの責任者、モニカ・ディフェンド氏は日本銀行による7月の利上げと政策シフトの見通しは円にとって「ゲームチェンジャー」だと指摘。「円のフェアバリューはこれまで140円だったし、現在でもそうだと、われわれは考えている」と続けた。

原油

  原油は下落。米雇用統計が軟調だったことから、世界最大の原油消費国である米国の需要が低迷するとの懸念が強まった。週間ベースでは11カ月ぶりの大幅下落となった。

  ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は2%余り下げて終了。週間では2023年10月以来の大幅安。8月の雇用統計を受けて米連邦公開市場委員会(FOMC)が大幅利下げに動くとの観測が強まる一方、ここ数週間にわたり原油相場の重しとなってきた原油消費の減退というシナリオを裏付けることにもなった。

  CIBCプライベート・ウェルスのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「市場は世界経済の強さとFOMCの行動をなおも見極めようとしており、神経質な状態が続いている」と分析した。

  最近見られた供給抑制の動きも原油価格の下落を止められていない。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」は、10月から日量18万バレルの供給拡大を計画していたが、その計画を2カ月遅らせることで合意した。日量220万バレル相当の減産を1年かけて段階的に巻き戻す長期計画は維持され、完了時期が2025年12月に2カ月先送りされた。

Oil Posts Biggest Weekly Drop in 11 Months | Decline comes despite OPEC+ pausing planned production increase
WTI先物週間騰落出所:ブルームバーグ

  市場ではOPECと米エネルギー情報局(EIA)、国際エネルギー機関(IEA)が来週公表する月例の市場見通しに注目が集まっている。

  エリック・リー氏らシティグループのアナリストは「OPECプラスによる減産巻き戻しの先送りや、地政学的情勢、ポジショニングがブレント原油の価格を1バレル=70-72ドルで支えている」とリポートで分析。その上で「2025年にはかなりの供給超過が表面化し、60ドル前後に下落する」と予想した。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物10月限は、前日比1.48ドル(2.1%)安の1バレル=67.67ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント11月限は2.2%下げて71.06ドルで引けた。

  金相場は下落。金は雇用統計発表後に一時上昇したが、その後下げに転じた。

  ブルー・ライン・フューチャーズのチーフ市場ストラテジスト、フィル・ストライブル氏は「FOMCが50bpの利下げを実施し、それ1回で終わってしまうこと」が金のトレーダーが抱いている懸念だと指摘。「それでは金にとって良い状況にはならない」と述べた。「どれだけの期間にどれだけ多くの利下げがあるか」をトレーダーは見極めようとしているとした上で、金が今後さらに上昇するためには、「継続した利下げ」が必要になると付け加えた。

Gold Slips After Mixed US Jobs Report | Metal is up more than 20% this year
金スポット価格(右軸)と米10年債利回り(左軸)出所:ブルームバーグ

  金スポット価格はニューヨーク時間午後2時27分現在、前日比21.16ドル(0.8%)安の1オンス=2495.60ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は18.50ドル(0.7%)下落し2524.60ドルで引けた。

原題:

Stocks Hit as Jobs Fuel Worst Week Since March ‘23: Markets Wrap

Dollar Turns to Gains in Aftermath of US Jobs Data: Inside G-10

Dollar Wavers as Traders Debate Fed Rate-Cut Pace: Inside G-10

Oil Sinks as Weak US Jobs Report Adds to Concerns About Demand

Gold Declines as US Jobs Data Fuels Debate on Fed Rate Cut Size 

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