世界的な人工知能(AI)ブームが、創業139年の歴史を持つ老舗電線企業を日本株市場のスターの座に押し上げている。

  データセンター向け光ファイバーケーブルやスマートフォン向けフレキシブルプリント基板(FPC)、自動車用ワイヤハーネスなどを製造するフジクラの株価は今年に入り5倍以上上げ、東証株価指数(TOPIX)構成銘柄の年初来上昇率で断トツだ。25日にはグローバル投資家がベンチマークに使うMSCIオール・カントリー・ワールド指数(ACWI)に日本から唯一採用される。

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  フジクラの取締役最高財務責任者(CFO)を務める飯島和人氏はブルームバーグのインタビューで、「2022年くらいからデータセンターの需要が大変高まってきた」と指摘し、特に今年に入りAIのためにデータを蓄積、管理する設備やシステムが山ほど必要だという「『GAFAM』の考えを肌で感じている」と語った。

Fujikura Shares Surge on AI Boom This Year

  ブルームバーグの分析では、AIに必要なデータセンターや電力供給、通信ネットワークに少なくとも1兆ドル(約155兆円)の支出が必要で、米格付け会社のムーディーズでは今後5年間の新しいデータセンターに対する投資額は世界全体で2兆円を超すと予測している。

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  スマホ向けFPCを製造するフジクラは、米アップルに部品を供給するサプライヤーリストにも名を連ねる1社。また、細径化と高密度化に成功した独自の光ファイバー技術「SWR」にも強みを持っている。

  フジクラは7日、生成AIの拡大を背景にデータセンター向け需要が引き続き伸びるとみて、今期(25年3月期)の営業利益計画を890億円から前期比50%増の1040億円に上方修正した。ブルームバーグのデータによると、前期売上高の7割以上を海外が占め、このうち米国は4割弱だった。米コンサルティング会社のマッキンゼーによると、世界のデータセンターの容量は30年まで年平均33%増える見通しだ。

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  フィリップ証券の笹木和弘リサーチ部長は、データセンター分野について「これから非常に伸びる。大規模化し、データの流入量と送信量が増えてくる」と述べた。

  フジクラは1885年に藤倉善八氏が絹・綿巻線のメーカーとして創業。電線からワイヤハーネス、光ファイバーと供給製品を拡大し、新幹線の信号ケーブルなども作っている。新型コロナウイルスの流行や米中の貿易摩擦に直面した20年3月期には16年ぶりの最終赤字に陥ったが、AIブームの恩恵でここ数年の利益は拡大傾向だ。

  米国では現在、インフラ計画に使われる米国製以外の製品や資材は米政府の援助を受けられないことが「ビルド・アメリカ・バイ・アメリカ法(BABA、バイアメリカン規則)」で定められている。さらに、海外製品に対し高率関税をかける方針の共和党のトランプ氏が来年1月に米大統領に返り咲くため、米市場で一定の売り上げがあるフジクラにとっても対応を迫られている状況だ。

  飯島CFOは、覚悟を決めて米現地法人で超多芯・高密度光ケーブルの製造拠点の立ち上げを完了したと説明。「米国で不利益、新たな課題が発生したとしても既に対応してきている」と語った。

  東証33業種の年初来パフォーマンスを見ると、フジクラがけん引した非鉄金属が50%高で上昇率2位。しかし、株価高騰でフジクラの株価収益率(PER)は約28倍と、競合の住友電気工業の11.8倍、古河電気工業の20倍と比べ割高になっている。ブルームバーグのデータによると、カバーするアナリスト13人のうち、10人が買いと強気派は依然多いが、競合の方が魅力的と話す市場関係者も存在する。

  オルタス・アドバイザーズの日本株式戦略責任者、アンドリュー・ジャクソン氏は「フジクラの大幅なアウトパフォーマンスを考慮すると、古河電工と住友電工にさらなる上昇余地がある」とみている。

  AIブームが業績を押し上げるフジクラが次に狙うマーケットは核融合だ。同社は昨年、米国で世界初の核融合炉の実証に取り組むコモンウェルス・フュージョン・システムズに対し、レアアース系高温超電導線材の納入を開始し、将来的な同製品の生産能力拡大を目指している。飯島CFOは「2030年以降の柱になってくれればと考えている」と話した。

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