[ワシントン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 200万ドルを1カ月で1兆2000万ドルに大化けさせられるのは、暗号資産(仮想通貨)ほど振れの大きい資産への投資だけかもしれない。トランプ次期米大統領が証券取引委員会(SEC)の次期委員長にポール・アトキンス氏を指名すると発表したことで、この単純過ぎる算数は正当化されそうだ。200万ドルとは、今年の米大統領選期間中に暗号資産業界の政治活動委員会(PAC)が支持候補につぎ込んだ金額で、1兆2000万ドルとは、11月初めからこれまでの暗号資産時価総額の増加分(率にして60%)。ただ、業界が期待している規制緩和により、目先の価格高騰は反転するリスクもある。
大統領選でトランプ氏が勝利して以来、暗号資産は絶好調だ。ビットコインだけ取っても、投開票日の11月5日から価格が約3万ドル上昇し、10万ドルの大台に迫っている。コインマーケットキャップの集計では、暗号資産全体の時価総額はこの間に2兆4000億ドルから3兆6000億ドルに膨らんだ。4日に発表されたアトキンス氏の起用は、この熱狂に油を注いでいる。
(編集部注:ビットコインは5日、初めて10万ドルを突破した)
アトキンス氏が議会上院の承認を経てSEC委員長に就任すれば、SECは一撃で暗号資産の懐疑派から推進派に入れ替わる。バイデン大統領が任命したゲンスラー現SEC委員長は暗号資産交換所を運営するコインベース・グローバル(COIN.O), opens new tabなどを、消費者保護の法令に違反している疑いで調査することを支持した。アトキンス氏はこうした姿勢に反対し、暗号資産の実態に即した一連のルールを設ける方が適切だと主張している。共和党議員と一部民主党議員がそうしたルールを策定中で、執行されれば暗号資産の正統性が高まるだろう。
新たな政策の下ではSECに代わり、より小規模な商品先物取引委員会(CFTC)に暗号資産についての大きな監督権限を持たせる可能性が高い。また、的を絞った暗号資産政策を採用することで、アジア・欧州各国の政策に近づくことにもなるだろう。
大手銀行と資産運用会社は「お墨付き」を心待ちにしている。そうなれば、最近承認された上場投資信託(ETF)など暗号資産関連の投資商品を、もっと安心して推進することができるだろう。大統領選後の急騰ぶりは既に、ビットコインなどの暗号資産が金融界の一角を確保しつつあることを示している。自由放任主義的な哲学を持つアトキンス氏だが、同氏が監視を怠るべきではない理由がますます増えたと言える。
業界を野放しにしたことは、暗号資産交換大手FTXによる320億ドル規模の不祥事、そして創業者の禁錮刑へとつながった。アトキンス氏が最後にSEC委員を務めたのは2008年で、リーマン・ショックおよび世界金融危機の数カ月前に退任した。監視を緩めれば、暗号資産の長期的な将来も危険にさらすことになるだろう。
●背景となるニュース
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(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)