Lu Wang、Denitsa Tsekova、Isabelle Lee
- 今年の米株相場は不安定な滑り出し、雇用統計発表後に売り強まる
- 経済の強さ示す統計、市場には朗報とはならず-インフレ再燃を懸念
2025年に入って早々、市場の楽観的な見通しに暗雲が立ち込めている。米株式市場は年初から不安定な滑り出しとなっていたが、10日にはほぼ全面的な売りにつながった。
この日発表された昨年12月の雇用統計では労働市場の堅調ぶりがあらためて示されたが、それによって近い将来の追加利下げへの扉は閉ざされたと市場は解釈した。
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市場の反応は、良い経済ニュースが市場にとって単純に朗報とはならないことを如実に示すものだ。特に金利感応度が高い投資戦略や、負債を抱える企業にとって、追加利下げの後ずれは脅威となる。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の金融緩和に期待して2025年に強気見通しを立てている投資家にとって、雇用者数が3月以来の大幅増となり、失業率が予想外に低下した今回の雇用統計は頭痛の種となった。
JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「過去数週間は、今年1年がどのような年になるかを予見する良い機会となったかもしれない」と指摘。「米金融当局の金利据え置き、割高なバリュエーション(すべての資産が楽観的な見通しと経済ソフトランディングを織り込んでいる)、二面性ある政策の不確実性という組み合わせだ」と語った。
最近はリスク資産が苦戦しており、特にトランプ・トレードの巻き戻しが目立つ。暗号資産(仮想通貨)のビットコインは昨年11月の米大統領選後の上昇分をある程度維持しているが、S&P500種株価指数の上昇分はほぼ失われた。トランプ次期政権の成長重視路線や保護主義的な政策への期待で物色されていた小型株はさらに下落している。
金利の上昇がトランプ氏の政策課題実現に向けた資金調達コストの上昇を招く恐れもある。米10年債利回りは足元、2024年末時点に比べて約20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)高い水準にある。
インフレ鈍化を示す経済指標が株価を押し上げていた昨年とは異なり、1月に入るとインフレ再燃が意識されて株式、国債ともに相場が軟調となった。S&P500種と長期国債の動きに連動する上場投資信託(ETF)によると、株式と債券を組み合わせたリターンは現在、5週連続でマイナスとなっている。これは2023年9月以来の長さだ。
10日に発表された昨年12月の雇用統計以外にも、米経済が堅調で物価圧力が高まっているいることを示唆する指標は相次いでいる。ミシガン大が同日発表した1月の調査では、消費者の長期インフレ期待が2008年以来の水準に上昇した。
原油価格も上昇しており、北海ブレント原油は10日、一時1バレル=80ドルを突破して昨年10月以来の高水準となった。
リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズの副最高投資責任者(CIO)、ダン・スズキ氏は「成長の上振れサプライズが増えれば増えるほど、それがインフレに与える影響を懸念する投資家も増える」と指摘。「利上げの可能性も視野に入れた利下げなしのシナリオに近づくほど、また10年債利回りが水準を切り上げる局面に近づくほど、それが流動性や成長、信用関連の問題にどんな意味を持ち得るか投資家は懸念を強めるようになる」と語った。
原題:Blowout Jobs Report Fuels Wall Street Fear of ‘Lose-Lose’ Market(抜粋)