Rita Nazareth

  • エヌビディア、時価総額5890億ドル失う-単一銘柄として過去最大
  • 米10年債利回りは一時、年初来で最低-円は逃避買いで5週ぶり高値

27日の米国株式市場では、ハイテク株主導でS&P500種株価指数とナスダック総合指数が下落。中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク)が開発した低コストの人工知能(AI)モデルの出現によって、ハイテク株の割高なバリュエーションを正当化するのが難しくなるとの懸念が広がった。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6012.28-88.96-1.46%
ダウ工業株30種平均44713.58289.330.65%
ナスダック総合指数19341.83-612.47-3.07%

関連記事:中国DeepSeek、米ハイテク株には本物の脅威-市場関係者の見方

US Stocks Drop Amid Tech Rout As DeepSeek Sparks AI Anxiety
ハイテク株が売り込まれたPhotographer: Yuki Iwamura/Bloomberg

  東京市場で始まった株売りが欧州、ニューヨークにも波及。S&P500種は1.5%、ナスダック100指数は3%それぞれ下落した。

  AIブームの申し子であるエヌビディアは17%急落。時価総額5890億ドル(約91兆円)が吹き飛び、単一銘柄としては史上最大の消失となった。フィラデルフィア半導体株指数は2020年3月以来の大幅安。

  マネーの逃避先を求め、生活必需品やヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄が買われた。

  モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのマネジングディレクター、クリス・ラーキン氏は「AI分野での混乱によって、今週は予想されていた以上に大きな正念場となりそうだ」と指摘。「市場の地合いに与える影響という点において、今週から始まるハイテク大手の決算の重要性はさらに高まるだろう」と述べた。

  ハイテク7社で構成する「マグニフィセント7」のテクノロジー銘柄のうち、アップル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、テスラの4社は今週業績を発表する予定。トレーダーは各社がAIへの多額の支出をどう正当化するのか注目している。

  この日の急落は、昨年11月のドナルド・トランプ氏の勝利以来優勢となっていた市場の楽観シナリオに見直しを迫るものだ。トランプ氏が進める規制緩和や減税、AI投資への政府支援によってリスク資産が明確に上昇するとの見立てが揺らいでいる。

  一方、ダウ工業株30種は0.7%上昇。マグニフィセント・セブンに関する指数は2.7%下落した。ラッセル2000指数は1%値下がり。恐怖指数として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は約18と、12月中旬以来の大幅上昇となった。

  バーンセン・グループのデービッド・バーンセン最高投資責任者(CIO)は「ハイテク株への投資マネーの偏重に加え、市場指標におけるハイテク株の集中度合いは重大かつ、過小評価されてきたリスク要因だ」と指摘。「そもそもこれだけのAI投資が必要ない、または賢明ではないかもしれないとの見解は、根本的なゲームチェンジャーとなり得る」と述べた。

  ゴールドマン・サックス・グループのトニー・パスクァリエッロ氏によると、米ハイテク大手の株価がさらに下落するとすれば、個人投資家による売りが引き金となる可能性がある。

  「戦術的に言えば、個人投資家は向こう数日に保有株式を急激に圧縮するだろう」と同氏はリポートで記述。ヘッジファンドはここ数カ月にわたりエクスポージャーを積極的に減らしてきたので、今回は個人投資家の反応が要因になると続けた。ただ、同氏は米ハイテク企業の構造的な優位性を強く信じているという。

  ミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マット・メイリー氏は、DeepSeekのAIモデルの方が一段とコスト効率に優れ、それほど高性能ではないチップで対応しているとの評価は、AIブームによる利益の押し上げ効果に対して深刻な疑問を投げかけると話す。

  その上で「これらの企業が利益の伸びを維持するのに苦戦する、あるいは利益成長目標の達成は困難といった印象を与えれば、足元で割高な水準にある株式市場にとっては相当な逆風となるだろう」と指摘した。

米国債

  米国債相場は大幅高。ハイテク主導の米国株急落で、安全資産とされる米国債の妙味が高まった。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.77%-7.5-1.55%
米10年債利回り4.53%-8.7-1.88%
米2年債利回り4.20%-6.6-1.55%
  米東部時間16時50分

  米10年債利回りは一時12.5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の4.50%と、年初来で最低水準を付けた。金融政策に最も敏感な2年債利回りも一時10bp低下の4.17%と、約1カ月ぶりの水準をつけた。

  株安が加速する中、短期金融市場は今年0.25ポイントの利下げが2回行われるとの見方を再び完全に織り込んだ。3月利下げの確率も先週の4分の1からおよそ3分の1に上昇した。

  ただ、今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、金利据え置きが決まる見通しだ。インフレがなお目標を上回っていることに加え、トランプ米大統領の経済政策が見通せないことが背景にある。

  オールスプリング・グローバル・インベストメンツのポートフォリオマネジャー、ローレン・ファンビリヨン氏は、大統領が指示した貿易政策の見直しが完了する4-6月(第2四半期)になってようやく、明確な方向性が見え始めるだろうと話す。

  「世界の中央銀行が今できるのは、現在のデータに対する潜在的リスクを指摘することで、実際にはほぼ保留状態だ」と同氏は指摘。「今年、来年、そしてそれ以降も、政策には多くの不確実性があり、それは米経済の成長だけでなく、世界経済の成長とインフレに影響を与え得る要因となるだろう」と続けた。

  この日の大幅上昇は、年限5-10年の国債利回りに最も大きな影響を与えた。2年債入札(690億ドル規模)の最高落札利回りは入札前取引(WI)水準とほぼ同じ4.211%。続いて行われた5年債入札(700億ドル規模)では、最高落札利回りがWI水準をやや下回る4.33%となった。

為替

  ニューヨーク外国為替市場では、円が対ドルでおよそ5週間ぶり高値に上昇。DeepSeekショックに伴う世界的なハイテク売りでリスクオフムードが広がり、安全資産とされる円やスイス・フランへの逃避買いが膨らんだ。

ブルームバーグ・ドル指数1296.841.680.13%
ドル/円¥154.51-¥1.49-0.96%
ユーロ/ドル$1.0491-$0.0006-0.06%
  米東部時間16時50分

  円は一時、1.5%高の1ドル=153円72銭と、昨年12月18日以来の高値に上昇した。一方、ブルームバーグ・ドル・スポット指数は小幅高となった。

円は対ドルで上げ拡大

  トランプ米大統領が不法移民の強制送還を巡ってコロンビアに関税発動をちらつかせて威嚇したことも、逃避買いの流れに弾みを付けた。

関連記事:トランプ氏、コロンビアへの関税賦課と制裁を保留-移民問題で合意

  ジェフリーズのモヒト・クマール氏は、コロンビアとの交渉について「関税は交渉の手段であるものの、市場はこのような発表がもたらすボラティリティーに対して一定のプレミアムを織り込む必要がある」ことを示していると指摘した。

  ストラテジストの一部は、日銀による先週の利上げと今後の政策方針を踏まえ、円にはなお上昇余地があるとみている。ヘッジファンドは、先週の日銀会合を前に円ショートを減らしており、これも円相場を下支えした。

  ブルームバーグのクロスアセット担当ストラテジスト(在ドバイ)、ベン・ラム氏は「エヌビディア株価の急落により、安全資産への逃避が促されており、円だけでなくスイス・フランも買いを集めている。今のところは無秩序な動きはみられないが、キャリートレードの解消がすでに冷え込んでいる市場心理にさらなる追い打ちをかけるかもしれない」と述べた。

  ラボバンクのG10外国為替戦略責任者、ジェーン・フォーリー氏は、日銀が緩やかなペースであっても利上げを継続するとの見方は、キャリートレードにおける円の利用を減らすことで円相場を支える可能性が高いと述べた。日銀の会合後に円相場が変動したものの、フォーリー氏は向こう12カ月の見通しで1ドル=145円の予想を維持している。

  ロード・アベットのポートフォリオマネジャーで為替チーム責任者、リア・トラウブ氏は「日銀は利上げしたばかりなので、少なくとも今後数カ月は据え置きになる可能性が高い」と指摘。「キャリートレードの巻き戻しは幾分進むだろう」と述べた。

原油

ニューヨーク原油相場は下落。金融市場全体にリスクオフのセンチメントが広がったほか、トランプ米政権の通商・外交政策が供給抑制につながる制裁よりも関税に重きを置くとのコンセンサスが裏付けられたことが背景にある。

  この日は、中国のAIスタートアップ、ディープシークを巡る懸念で株式相場が下落。このほか、世界最大の原油輸入国である中国の製造業活動が1月に縮小したことも、原油相場には向かい風となった。

  トランプ大統領は26日、強制送還される不法移民を巡る対立を理由にコロンビアに関税を賦課するといったん表明。ただその後に両国はこの問題で合意に達し、トランプ氏は関税を保留すると発表した。同氏はまた、中国とカナダ、メキシコ、欧州連合(EU)に対して行動を起こすと脅しているほか、石油輸出国機構(OPEC)に対して原油価格引き下げを働き掛けると発言。原油価格が下がれば、ロシアの収入が減り、ウクライナでの戦争終結につながるとの考えを示している。

Crude Sinks Amid Risk-Off Sentiment | WTI follows equities lower to settle near $73

  ストラテガス・セキュリティーズのアナリスト、ジョン・バーン氏は、こうした動きは、米国による最新の対ロシア制裁に絡む価格上昇の巻き戻しを後押ししていると分析。

  「トランプ政権は『掘って掘って掘りまくれ』の方針で価格を有意に押し下げることはできないだろうが、制裁によって積極的に原油価格を引き上げるような政策アジェンダを追求することはない」ということを市場参加者は認識しつつあると述べた。

  またTDセキュリティーズの商品ストラテジスト、ダニエル・ガリ氏は、先物が1バレル=75ドルの価格レンジを割ったことで、アルゴリズム取引を行うトレーダーが強気ポジションを手じまい、その影響で下げが加速したと分析。また相場下落の中でクオンツファンドもレバレッジ解消に動き、売りが強まったと付け加えた。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物3月限は、前営業日比1.49ドル(2%)安の1バレル=73.17ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント3月限は1.8%下げて77.08ドルで引けた。

金相場は下落。世界的にテクノロジー株が大きく下げる中、株式投資での損失をカバーするため金を売る動きが広がった。

  TDセキュリティーズの商品戦略担当グローバル責任者、バート・メレク氏は「株式市場での大幅な調整は金を含む全ての資産クラスに影響を与える」と指摘。「流動性の問題であり、マージンコールに対応する上で、大きく下げた株式ではなく金のような資産が利用されている」と述べた。

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  金スポット相場はニューヨーク時間午後2時21分現在、前営業日比31.25ドル(1.1%)安の1オンス=2739.33ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物4月限は40.40ドル(1.4%)下げて2766.20ドルで引けた。

原題:Stock Bulls Get AI Wake-Up Call in Bruising Plunge: Markets Wrap(抜粋)

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