DeepSeekに見る中国のAI戦略の脅威-豊富なIT人材と需要が強みに<bloomberg日本語版>2025年1月28日 23:13 JST

Yuan Gao、Vlad Savov

  • 中国政府、先進半導体分野に巨額投資-ハードウエアでは依然後れ
  • 米国の対中半導体規制の限界を露呈-専門家は「強力な防衛」求める

中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク)が発表した高性能人工知能(AI)モデルは、世界市場を混乱させ、中国の台頭を遅らせることを狙った米国の輸出規制の限界も露呈させた。同社の成功は、中国がさらに大きな技術的躍進を達成する道を示している。つまり、最先端の半導体を自国で生産することだ。

  米国の競合他社とほぼ同等の費用をかけずに革新的なAIモデルを構築できるディープシークの能力に、テック業界のリーダーや政治家らが驚嘆する中、中国東部・杭州市のこの企業がどうやって開発を実現したのか、また、技術競争で中国に対する優位を維持しようとする米国にとって、同社の成功がどのような意味を持つのかが今問われている。

DeepSeek Shakes Up Stocks as Traders Question US Tech Valuations
DeepSeekのアプリPhotographer: Andrey Rudakov/Bloomberg

優位性

  ディープシークが使用した半導体の詳細や、AIモデルの開発をさらに進めるのに十分な半導体が手元にあるかなど不明な点は多いものの、今回の成功で、中国側にいくつか重要な優位性があることが浮き彫りになった。中国には、高度な技術を持つソフトウエアエンジニアが豊富に存在し、広大な国内市場と、補助金や研究機関への資金提供という形の政府の支援がある。一方で、少ない資源でより多くを行う方策を見つける必要性も増している。

  中国のAI普及の先頭に立つ清華大学国家戦略研究院の研究員、劉旭氏は「中国はIT人材の数と人件費の両面で明らかに優位性がある。中国にとって最大の資源は、世界で最も人口の多い国の一つであり、巨大な製造拠点かつ巨大な需要がある点だ」と指摘する。

  様々な点で、ディープシークは中国が誇る最高の例だ。テンセント・ホールディングス(騰訊)のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」から字節跳動(バイトダンス)の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」に至るまで、中国のアプリ開発企業は、新しいコミュニケーションや電子商取引(eコマース)の形を開拓しながら、世界をリードする消費者向けアプリを開発してきた。そして今や、ディープシークのモデル「R1」は、米国のオープンAIアルファベット傘下のグーグル、メタ・プラットフォームズのAIに挑戦する。

  ただ、ハードウエア分野では中国は依然として追いかける立場にある。近年、米国の輸出規制の主な焦点となっているのがこの分野だ。米国は中国に対し、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)から最先端のAI半導体購入を禁止している。また、最先端半導体の製造に不可欠なオランダのASMLホールディングの装置の入手も阻止している。

  中国の習近平国家主席は、新興技術での先行を目指す戦略「中国製造2025」の一環として、先進的な半導体分野での画期的な進歩を実現しようと、巨額の資金を投じてきた。ブルームバーグ・エコノミクスとブルームバーグ・インテリジェンスの調査によると、この取り組みはほぼ成功している。同国は電気自動車(EV)、バッテリー、ソーラーパネルなどの製造で優位に立ち、製造業の能力を過去にないレベルに押し上げている。

  通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)などはAI半導体の生産で進歩しているが、現時点ではエヌビディア製造の半導体に性能が劣る。特にバイデン前政権が貿易規制を強化して以降、最先端半導体へのアクセスが制限されたことは、中国のAI開発にとって大きな障害であり続けている。

対抗

  トランプ米大統領の就任直後に新モデルを発表したディープシークが、現在のAIモデルにつながった最先端半導体へのアクセスを継続できるは不透明なままだ。同社の創設者、梁文峰氏(40)は、米国の輸出規制が今後の成長の妨げになっていると指摘した。

  トランプ氏は27日、ディープシークのR1について「前向きな展開」と称賛し、「わが国の産業にとって、勝つためにはレーザー光線のように競争への集中が必要という警鐘となるはずだ」と述べた

  パデュー大学のクラック技術外交研究所のミシェル・ジュダ最高経営責任者(CEO)は、ブルームバーグテレビジョンに対し、米国は輸出規制を強化し「本当に強力な防衛」を維持することが不可欠だと主張。また、2020年のエンジニアリング卒業生が中国は米国の2倍以上だったことを挙げつつ、「データセンターの構築や設計、より高度なAIの設計を行うエンジニアを確保できなければ、AIの世界的な中心地になることはできない」と述べ、人材育成の重要性も訴えた。

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原題:DeepSeek Shows China Playbook to Deal an Even Bigger Shock to US(抜粋)

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