「楽しい」に関連したフレーズが訳もなく飛び交っている。前者はいま話題のフジテレビ元会長・社長の日枝久氏が、編成局勤務の全盛時代につくったキャッチコピーだという。日枝氏は退任した後もグループの全権を掌握、自らの楽しみをフジグループの経営に求めたのだろう。後者は言わずと知れた石破総理の発言。通常国会の施政方針演説に盛り込んだ言葉だ。いずれも違和感がある。一般庶民はテレビを視ても国会中継を聞いても、一向に楽しくないのだ。いま両氏とも国民の不評をかっている。テレビに映る日枝氏の表情は、いかにも実力者然としている。怖そうだ。意に沿わないことを言うと怒られそうな気がする。およそ楽しいとは不釣り合いだ。一方の石破氏、テレビに映る姿はいつも俯き加減でイライラしているようにみえる。

表情も暗い。その人が「楽しい日本をつくる」と言う。つい聞きたくなる。「どうやって?」。その前に「もう少し楽しそうに振る舞ったら」、余計なことも言いたくなる。フジテレビに限らないが、いつ頃からかテレビ番組を見ていて気になり出したことがある。情報番組やお笑い番組、トーク番組に多いのだが、出演者の発言にスタジオ内部で爆笑が起こり、その声が電波に乗って聞こえるようになってきたのだ。視聴者としては何が面白いのかさっぱりわからない。そのパフォーマンスは出演者やスタッフ、カメラマンなど番組制作者が、「自分たちだけで楽しんでいる」ように見える。まるで日枝氏が作ったキャッチコピーを実演しているようだ。テレビ局は国民の財産である公共の電波を政府から借り受けて成り立っている。賃貸料も総務省との馴れ合いで決まっているのだろう。

国際的にみるとすごく安いのだそうだ。世界の常識は競争入札だ、だから高くなる。テレビ局に対する不信感は脆弱なガバンナンスだけではない。経営基盤そのものに疑念が付き纏っているのだ。一方の石破総理。施政方針演説を見ていたわけではないが、メディアの情報によると防災から財政、外交・安全保障まで多岐にわたる政策や方針を示した上で、「楽しい日本をつくり上げる」と宣言したそうだ。少数与党政権である。思い通りに進まないことも多いのだろう。同情は禁じ得ないが、だからと言って不貞腐れたような仏頂面で、「楽しい日本」と言われても国民の方が困るだろう。少しは気を遣ったらどうだ。肝心の所得税の控除額については何も言わない。「両党の政策担当者が協議している」だと。想像するに「楽しい日本」とは、自分たちが楽しめる日本という意味だろう。フジテレビも自民党も似ている。評判が悪いわけだ。