By Emma FargeMaggie FickPoppy McphersonHumeyra PamukJennifer Rigby

焦点:トランプ米大統領の対外援助凍結、世界で混乱広がる

[8日 ロイター] – トランプ米大統領が就任後に対外援助の凍結を命じる大統領令を出してから3週間弱が経過し、世界中の救命プログラムが停止するなどの影響が広がっていると数十人の援助活動関係者と国連職員がロイターに明らかにした。

大統領令の発令後、ルビオ国務長官は「救命人道支援」と呼ばれる「中核的な救命薬、医療サービス、食料、シェルター、生活支援」については例外扱いとするように指示した。しかし、例外扱いを設けたことで米国が資金援助を再開しないのではないかと援助活動関係者らは疑心暗鬼になっており、混乱が拡大している。

プログラムが例外扱いになるかどうかは米国側に確認する必要がある。だが、米政府関係者との意思疎通がうまくいかない場合があるほか、解雇されたり、口止めされたりしている関係者も出ている中で不可能に近いという。

このような混乱が起こることは、トランプ政権の意図通りだったことがあらわになっている。ロイターが1月31日に確認した会議の録音によると、米国際開発局(USAID)の職員は例外措置について、それが何を含むか含まないかについて対外的に伝達しないよう指示された。

これについて米国務省とホワイトハウスはコメント要請に応じなかった。

発展途上国で援助凍結の打撃が広がり、米国が最大の援助国となり、世界的な同盟関係を構築するために数十年にわたってイニシアチブを築いてきたのをトランプ氏が覆したことの弊害が露呈している。

スイス・ジュネーブを拠点とする援助関係者は、連絡を取った米政府当局者の反応に唖然とした。関係者は「私たちはどのプログラムを中止すればいいのかを具体的に教えてくれないかと尋ねると、『これ以上のガイダンスはない』というメッセージが返ってきた。これでは、どのプログラムが『命を救う』ものなのか選択しなければならない状況に追い込まれる」とし、「自腹を切るお金はない。あるかどうかもわからないお金を使えない」と話した。

USAIDの混乱は特に深刻で、トランプ氏が新組織「政府効率化省(DOGE)」のトップに起用した米実業家イーロン・マスク氏は「犯罪集団」だと批判して閉鎖の対象とした。

自然災害と内戦の激化により、食糧危機に直面しているミャンマーの援助団体で働く2人の職員は、同国での米国の資金を使った食品の配給が例外扱いになるのかどうかは分からないとロイターに語った。1人はこの状況を「騒乱」と表現した。国連によると、ミャンマーでは推定200万人が飢饉の危機に瀕している。

バングラデシュではミャンマーから来た100万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャが難民キャンプで生活しており、米国は援助資金の約55%を拠出してきた。国際的な救援組織「インターセクター・コーディネーショングループ」は現地の援助団体に宛てた未発表の声明文で、米国の対外援助凍結で「必要不可欠な救命活動の一部」が中断されたと明らかにした。

バングラデシュの国連職員はどのプログラムを続けるのかを確認しようとしたものの、米国の担当者が「電話に出ない」と説明した。

雨季に蚊が爆発的に増えるのを控えてガーナとケニアではマラリア対策のために大規模な殺虫剤散布を2月に始める予定だったが、USAIDの請負業者は殺虫剤と蚊帳が倉庫に眠ったままだと明らかにした。

マラリアは感染した蚊に刺されることによって人に感染し、予防することが可能だ。世界保健機関(WHO)は昨年12月、2023年の世界のマラリアによる死者59万7000人の大半はアフリカの5歳未満の幼児だったと発表した。

請負業者は、トランプ政権の対外援助凍結が「それらの対策を実施する小さな窓を急速に閉じようとしている」と問題視した。

米首都ワシントンに本部を置く世界的な非営利団体、マラリア・ノー・モアは対外援助凍結によって1560万人分の救命治療薬、900万人分の蚊帳、4800万人分の予防薬の配布ができなくなる恐れがあると指摘した。

米国はマラリア予防および対策で最大の支援国となっており、その大部分はジョージ・W・ブッシュ元大統領が2005年に設立した「プレジデント・マラリア・イニシアティブ」(PMI)が担っている。PMIのウェブサイトにはマラリアの危険にさらされている人々に関する情報が掲載されていたが、現在は削除されて「大統領令に沿うために内容を迅速に全体的に検証しているため、このウェブサイトは現在メンテナンス中です」と記されている。

USAIDの技術アドバイザーとして米西部モンタナ州でリモート勤務していたものの、トランプ氏の大統領就任後の今年1月28日に解雇されたアン・リン氏は「とても残酷で無意味なことだ」と嘆いた。

ハイチではエイズ(後天性免疫不全症候群)患者の治療プログラムが米国の対外援助凍結の例外扱いになるはずだったものの、具体的な指示を文書で受け取れなかったため停止していると関係者が明らかにした。国連によると、米国は24年にハイチへの人道支援の60%に当たる総額2億0800万ドルを提供していた。

<USAIDの大混乱>

USAIDはマスク氏が率いるDOGEの標的となり、職員はワシントンの本部から締め出されている。水・衛生の専門家である元職員は、1月28日に自身ら数十人が解雇された後にグローバルヘルス局が「大混乱」に陥ったと証言した。「あまりにもあっという間の出来事だったので、電子メールや連絡先を保存する術がなかった」とし、「私たちは全て捨てられ、踏みつぶされた」と悔しさをあらわにした。

タイでは米国の援助凍結により、国際救済委員会(IRC)がミャンマーとの国境にある7つの難民キャンプで運営していた病院と診療所を直ちに閉鎖せざるを得なくなった。キャンプの支援拠点のディレクター、フランソワ・ノステン氏は、多くの人々がIRCの施設から退去させられ、妊婦や子供らが薬や医療器具を利用できないままになっていると説明して「全ての活動を打ち切れば一部の人々が命を落とす」と警告する。

また、肺の疾患で入院して酸素吸入に頼っていた高齢女性は、施設から追い出された4日後に死亡したと遺族が明らかにした。

関連情報

▽【解説】 米国際開発局(USAID)とは? なぜトランプ政権の標的に?<BBC日本語版>2025年2月5日

パキスタンの洪水で家族と避難した7歳のサジャド君。USAIDはサジャド君を含め数百万人を世界各地で支援してきた
画像説明,パキスタンの洪水で家族と避難した7歳のサジャド君。USAIDはサジャド君を含め数百万人を世界各地で支援してきた

ショーン・セドン、BBCニュース

アメリカ政府の主要な対外援助機関、国際開発局(USAID)の将来が不透明になっている。職員は庁舎から閉め出され、トランプ政権はUSAIDを国務省と統合する計画を進めている。

BBCが提携する米CBSニュースによると、USAIDは国務省の一部門として機能し続ける見通しだが、政府は予算と人員の大幅な削減を計画している。マルコ・ルビオ国務長官は3日、USAID幹部たちが「反抗的」だと非難し、「暫定的な責任者」は自分だと述べた。

3日までに開かなくなっていたUSAIDの公式サイトは4日、一枚の発表文だけを掲示。そこには、米東部時間7日午後11時59分をもって、USAIDに直接雇用されている人員は全世界的に休職処分となる」とある。アメリカ国外に派遣されている人員については現在、帰国手続きを進めているとも書かれている。

ドナルド・トランプ大統領と側近の大富豪イーロン・マスク氏は、USAIDを強く批判してきた。

しかし、USAIDを閉鎖すれば、世界中の人道支援プログラムに深刻な影響を与える可能性がある。

USAIDとは何か その機能は

USAIDは、アメリカ政府の機関として世界各地で人道支援事業を展開するため、1960年代初頭に設立された。職員約1万人を雇い、その3分の2は国外で働いている。60カ国以上に拠点を持ち、それ以外の数十カ国でも活動している。しかし、現地での作業の大部分は、USAIDが契約し資金提供している他の組織が請け負っている。

USAIDの活動範囲は広範だ。例えば、飢餓に苦しむ国々に食料を提供するだけでなく、食料が不足しそうな場所をデータ解析で予測しようとするUSAIDの飢饉(ききん)検出システムは、世界標準として広く活用されている。

USAIDの予算の多くは、ポリオ予防接種のほか、パンデミックにつながり得るウイルスの拡散を防ぐための健康事業に使われている。

BBCの国際慈善団体BBCメディア・アクションは、外部からの助成金や寄付を資金源としており、USAIDからも資金提供を受けている。

2024年の報告によると、USAIDは320万ドル(約4億9000万円)を寄付し、BBCメディア・アクションにとってはUSAIDが2024年度、2番目の大規模寄付者だった。

USAIDにアメリカ政府はどれだけ支出しているのか

USAIDがウクライナに提供した救急隊の防護服や装備(2023年7月、キーウ)
画像説明,USAIDがウクライナに提供した救急隊の防護服や装備(2023年7月、キーウ)

政府データによると、アメリカは2023年に680億ドル(約10兆円)を国際援助に使った。

この総額は複数の部門や機関にわたるものだが、USAIDの予算はその半分以上を占め、約400億ドルだった。

予算の大部分はアジア、サハラ以南のアフリカ、ヨーロッパ、特にウクライナでの人道支援に使われた。

アメリカは国際開発において世界最大の支出国であり、その規模は他国に比べて突出している。たとえばイギリスは世界で4番目に大きな援助支出国で、2023年の支出額は153億ポンド(約2.9兆円)に上ったものの、これはアメリカによる支出額の約25%だ。

なぜトランプ氏とマスク氏はUSAIDを刷新したいのか

トランプ大統領はかねてアメリカ政府の対外支出を批判してきた。アメリカの納税者にとって相応の価値を伴わないという考えだ。大統領はとりわけUSAIDを強く批判し、上級職員を「急進的な狂人」と呼んでいる。

USAIDの廃止は、アメリカ国民に広く支持される可能性が高い。世論調査は以前から、アメリカの有権者が外国援助支出の削減を支持していると示している。シカゴ国際問題評議会によると、1970年代にさかのぼる世論調査データから、国民が外国援助削減を支持してきたことがわかる。

トランプ大統領が就任後真っ先に署名した大統領令の中には、ほぼすべての国際支出を90日間にわたり点検するという内容も含まれていた。

その後、国務省からの覚書によって、現地活動の大部分が停止された。人道支援プログラムは後に除外されたものの、国務省の発表は国際開発の世界を揺るがし、各地の支援活動はひどく混乱した。

マスク氏もトランプ氏もアメリカの海外支出を強く批判してきた
画像説明,マスク氏もトランプ氏もアメリカの対外支出を強く批判してきた

世界の最貧層に薬を提供したり、清潔な水の供給を確保したりする事業などが、一夜にして停止した。人道支援活動のベテランはBBCに対し、この停止は「援助セクター全体にとって地震のようなものだった」と話した。

ホワイトハウスとUSAIDの間の緊張関係は、今月1日から2日にかけて悪化した。連邦政府予算で支出を削減すべき部分を特定するようトランプ大統領に指示されているマスク氏の部下が、重要機密になっている財務データの提供をUSAID本部で要求し、断られたからだという。報道によると、USAIDの保安担当幹部2人が休職処分になったとされる。

マスク氏は3日、所有するソーシャルメディア「X」での公開ディスカッションで、「USAIDについては(大統領に)詳しく説明した。閉鎖するべきだと(大統領は)同意した」と発言した。

USAIDの公式サイトは3日までに開かなくなった。職員は3日に自宅待機を命じられた。

ルビオ国務長官はUSAID幹部を「反抗的」だと非難し、「暫定的な責任者」は自分だと述べたほか、これまでUSAIDが担ってきた「機能の多く」は今後も続くものの、その支出は「国益に沿ったものでなくてはならない」と話した。

トランプ氏はUSAIDを閉鎖できるのか

USAIDに対してホワイトハウスが大きい影響力を持つのは明白だが、理論上、その権限には限界がある。

USAIDは1961年、連邦議会が外国援助法を可決した後に設立された。この法律は、政府の海外支出を管理する政府機関の設立を義務付けるものだった。

法律成立から間もなく、ジョン・F・ケネディ大統領が大統領令を通じてUSAIDを設立した。さらに、1998年には独立した行政機関としてのUSAIDの地位を確認する法律が可決された。

端的に言うと、トランプ大統領が大統領令に署名するだけではUSAIDを廃止することはできない。トランプ氏がそうしようとすればほぼ確実に、裁判所や議会で強い抵抗に遭うはずだ。

USAIDは近年ではたとえば、トルコで甚大な被害が出た地震後に捜索救助機器を送った
画像説明,USAIDは近年ではたとえば、トルコで甚大な被害が出た地震後、現地に捜索救助機器を送った

USAIDを完全に閉鎖するにはおそらく、連邦議会の承認が必要だ。トランプ大統領の共和党は両院でわずかながら、多数を占める。

トランプ政権はUSAIDの今後について、独立した政府機関ではなく国務省の一部門として機能させることを選択肢として検討している。

このような取り決めは全く前例がないわけではない。イギリスでは2020年に当時のボリス・ジョンソン首相が国際開発省を外務省と統合させた。

こうすることで、対外支出が政府のさまざまな外交政策目標を確実に支えるようになると、ジョンソン政権の閣僚たちは主張した。しかし、措置に批判的な人たちは、援助分野の専門性が減るばかりで、海外でのイギリスの地位と影響力が損なわれると警告した。

USAID閉鎖の影響は?

アメリカからの援助資金が不均衡に多いため、その資金の使い方が変更されれば、世界中が影響を感じるようになるだろう。USAIDの活動は、ウクライナで負傷した兵士に義肢を提供することから、地雷の撤去、アフリカでのエボラ拡散抑制まで、多岐にわたる。USAID閉鎖の影響は本当に地球規模のものになる可能性がある。

対外支出の90日間凍結が発表された後、ルビオ国務長官は使われる「1ドル1ドル」がアメリカをより安全で強く繁栄させることを、証拠によって「正当化」する必要があると述べた。

野党・民主党の政治家たちは、トランプ政権のこの動きは違法で、国家安全保障を危険にさらすと非難。アメリカの援助が以前凍結された際に、イスラム武装組織「イスラム国(IS)」の戦闘員数千人を警備していたシリアの刑務所看守たちが、その場で職務を放棄しそうになったという報告を引用した。

トランプ大統領は、対外支出を「アメリカ・ファースト」の方針にぴったり一致させたいと明言している。それだけに国際開発分野の関係者は、今後も衝撃的な展開が続くだろうと身構えている。

加えて、トランプ大統領が後押しするマスク氏は連邦政府予算を数十億ドル削減しようとしているため、アメリカが今後、国外にどれだけ使うことになるのかについても、さまざまな疑問が出ている。

(英語記事 What is USAID and why is Trump reportedly poised to close it?