25日付のサンケイ新聞(Web版)に興味深い記事が掲載された。「自民『れいわ新選組ショック』30代支持率で逆転、公明と対応協議へ『30代の意見大事』」とタイトルされている。要は若年層の間で自民党離れが急激に進んでいるという内容だ。別に驚く内容ではない。昨年の総選挙の結果を見ても、主要政党の中で投票数を伸ばしたのは国民民主党とれいわ新選組の2党だけだ。要因はSNSと減税公約。SNSは置くとして、この2党が103円の壁撤廃と消費税の廃止を訴え、若年層の心を掴んだのだ。個人的にはもう一つの要因があると考えている。インフレだ。減税はこれまでも頻繁に主張されてきた。目新しい公約ではない。これにインフレが加わった。この状況変化に自民党は対応できなかった。これが若者の自民党離れを加速した。来年度予算案の成立に向け、自公連立政権は維新と政策協定を結んだ。これで若年層の支持率が回復に向かうか、7月の参院選挙の最大の注目点になった。
横道にそれるが、少し前に読んだ「世界インフレの謎」(講談社現代新書)という本に興味深い指摘があった。日本を代表するインフレ研究の第1人者、渡辺努氏の著書である。要はコロナ・パンデミックの恐怖が世界中の人々に「行動変容」をもたらし、それが原因でインフレが加速したというのだ(詳しくは著書で)。インフレの原因はウクライナ戦争でもサプライチェーンのボトルネックでもなく、人々の行動変容にある。コロナの恐怖、それに伴う自発的な行動変化。当時日本では安倍首相や小池都知事が盛んに「三密回避」とか「ソーシャル・ディスタンス」「手指消毒」を喧伝していた。こうした呼びかけが功を奏したわけではない。人々が自主的に安全な場所に引き篭ったというのだ。これを個人的に言い直せば、パンデミック初期に国民的に人気のあった志村けんと岡江久美子がコロナに罹患して死去した。この恐怖が国民に「行動変容」をもたらした。行動変容は強制ではなく自発的である点に注目する必要がある。
かつて安倍政権の全盛の時代、日本の若者は「保守化した」と言われた。それが自民党の高い支持率を支えた要因でもあった。産経新聞(FNNと共同調査、22、23日実施)によると、国民民主の支持率は18~29歳で14・9~25・4%、30代で11・0%~15・9%。最近、存在感を発揮しているのがれいわ。特に30代での支持率は昨年11月は2・5%に過ぎなかったが、12月に4・7%、1月に7・0%、2月には14・4%まで急伸した。逆に自民党は2月の30代支持率(11・2%)が昨年10月(28・1%)の4割に、18~29歳の支持率(11・8%)は10月(19・7%)の6割に落ち込んでいる。こうした変化の最大の要因はインフレだろう。コメの値段が1年前に比ベ倍になっている。こんな環境で展開された減税論争。自民党は行動変容を起こしている有権者に寄り添えなかった。もっと言えばデフレ時代こそ減税すべきだったのに、消費税増税に踏み切った。いまの自民党はこの延長線上で彷徨っている。政党支持率でも若い有権者は知らず知れずのうちに行動変容を起こしている。自公維の3党はまだそれに気づいていない。