Rita Nazareth
- 世界的に株が値下がり、貿易戦争による世界経済への影響を懸念
- 市場では「トランプ・プット」はあるのかとの疑問が広がっている
4日の米株式相場は下落。この日は米国だけでなく、世界的に株価が下げた。貿易戦争による世界経済への影響が懸念され、短期債や金、安全通貨への逃避の動きが広がった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 5778.15 | -71.57 | -1.22% |
ダウ工業株30種平均 | 42520.99 | -670.25 | -1.55% |
ナスダック総合指数 | 18285.16 | -65.03 | -0.35% |
この日はニューヨークだけでなく、ロンドンと東京の市場でも株価が下落。S&P500種株価指数は米大統領選後の上昇がほぼ帳消しとなり、時価総額にして3兆4000億ドル近くが吹き飛んだ。米国は中国とカナダ、メキシコからの広範な製品に関税を賦課。それら3カ国からは既に対抗措置の動きが出ている。貿易を巡る緊張から成長に対する懸念が強まり、短期金融市場では米金融当局が年内に0.25ポイントの利下げを3回実施するとの見方が完全に織り込まれた。

こうした動きは、世界における米国の経済・外交面での位置付けをリセットしようというトランプ米大統領の取り組みが新たな段階に入ったことを示している。米株式相場が失速しているにもかかわらず、ベッセント米財務長官は関税政策に対する自信を示した。トランプ氏は米東部時間4日夜に議会で演説を行う。
ウォール街がトランプ政権1期目に学んだことがあるとすれば、株式市場はトランプ氏が自身の成績を管理するための手段だということだ。株式市場を成績表として利用するというトランプ氏の傾向から、市場を動揺させるような政策があれば、同氏は計画を修正するというのが定説だった。だが株式相場が大きく下げる中、投資のプロたちは「トランプ・プット」はあるのだろうかとの疑問を持ち始めている。
ニュースレター「ザ・セブンズ・リポート」の創業者トム・エッセイ氏は「『トランプ・プット』はどこだろう」とし、「株式市場にどの程度の『痛み』が生じればトランプ氏と政権は方針を転換するのだろうか。もちろん正確な数字は分からないが、『貿易戦争1.0』を振り返ってみると、S&P500種が10%程度下落したあたりで『トランプ・プット』が発動されることが示唆される」と述べた。
引け後には、トランプ米政権が「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の対象となるメキシコおよびカナダ製品に関し、関税の軽減に向けた道筋を5日にも発表する可能性があると、ラトニック商務長官が明らかにした。
関連記事:トランプ米政権、カナダ・メキシコ関税の軽減をあす発表も-商務長官
ラファー・テングラー・インベストメンツのナンシー・テングラー氏は、株式相場の下落について、「今回の下落はもちろん関税により拍車がかかっている」と指摘。「関税がどうなるかだけでなく、いつまで続くと考えられているのかを分析する必要があるだろう。関税が短期間で終わるかどうか、その兆候が表れ始めることを望んでいる。短期的なものであれば、今は長期保有を視野に株式を購入する好機だといえる」と述べた。

ミラー・タバクのマット・メイリー氏は、市場、そして主要銘柄の一部は「かなり売られ過ぎ」の状態にあると指摘する。
「年内どこかの時点で大きな調整が起きるとみているが、それが一直線にやって来ることはないだろう」とし、「われわれはここしばらく、『上昇局面で売れ』と投資家に言い続けてきた。今でも同様の考えだ。だが多くの人が考えているよりも早く回復する可能性はある」と語った。

ノースライト・アセット・マネジメントのクリス・ザカレリ氏は、市場はようやくトランプ政権の言葉を文字通り受け止め、関税に関する発言が単なる交渉戦術ではなかったという認識が浸透し始めていると分析。
「われわれが1年間にわたり促してきた警戒は市場からはほとんど無視されたが、いま起きていることに何も驚きはない。これらの関税措置は十分予告されていたことだが、投資家はトランプ氏が本気だと信じようとしなかった。彼が何度も実施の意向を示していたにもかかわらずだ」と付け加えた。
米国債
米10年債も動きの大きな一日となり、利回りは10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)以上の幅で変化した。午前中には大きく上昇して利回りは数カ月ぶり低水準となる4.1%に低下。だが相場はその後下げに転じ、利回りは一時4.24%に上昇した。ドイツが5000億ユーロ(約80兆円)規模の特別インフラ基金を設立するとの報道を受けてドイツ国債が下げを拡大し、米国債も連れ安となった。
関連記事:ドイツが借り入れ制限緩和へ、主要政党はインフラ基金立ち上げで合意
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.54% | 8.7 | 1.96% |
米10年債利回り | 4.24% | 8.9 | 2.14% |
米2年債利回り | 3.99% | 4.1 | 1.04% |
米東部時間 | 16時59分 |
為替
外国為替市場ではドルが軟調。米国によるカナダとメキシコ、中国に対する関税が発動されたことで世界的にリスクセンチメントが打撃を受け、今後数カ月の米成長に対する投資家の見方が一段と悪化した。ユーロは年初来高値を更新。ドイツが5000億ユーロ規模の特別インフラ基金設立と債務ブレーキ改革について発表したことを受けた。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1284.58 | -7.91 | -0.61% |
ドル/円 | ¥149.82 | ¥0.32 | 0.21% |
ユーロ/ドル | $1.0626 | $0.0139 | 1.33% |
米東部時間 | 16時59分 |

XTBのリサーチディレクター、キャスリーン・ブルックス氏は「10月から1月にかけてトランプ氏によってもたらされた資産価格の上昇は、かなり急激に失われつつある」と指摘。「米国債利回りの低下とドル下落の間に関連があるのは確実だ」と述べた。
円は一時上昇し148円台前半を付けたが、その後は下げに転じた。ニューヨーク時間の夕方には149円台後半で推移した。

原油
ニューヨーク原油先物相場は小幅ながら3日続落。トランプ米大統領が一連の関税を発動したことを受け、売りが優勢になった。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが、これまで数回にわたり延期していた生産引き上げを4月に開始する見通しとなったことも引き続き売り材料視された。
北海ブレント原油は昨年10月以来初めて1バレル=70ドルを下回る場面もあった。終値では11月以来の安値となった。

証券会社PVMはリポートで「OPECプラスが前日に発表した生産引き上げに加え、メキシコ、カナダ、中国からの輸入品への関税が相まって、市場が供給過剰となり、経済成長と石油需要も打撃を受ける見通しが高まっている」と記した。
ユーラシア・グループの地政学アナリスト、グレゴリー・ブリュー氏は「OPEC以外の供給が縮小しない限り、価格はさらに下落するだろう」と指摘。ブレント原油は今後1年、60ドル台前半で推移するとの見通しを示した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物4月限は前日比11セント(0.2%)安の1バレル=68.26ドル。ロンドンICEの北海ブレント5月限は0.8%下げて71.04ドル。
金
金スポット価格は続伸。トランプ大統領がカナダとメキシコへの関税発動を踏み切り、中国への関税率を現行の2倍に設定したため、金買いが続いた。
米国がウクライナへの軍事支援をすべて停止したことで、地政学リスクも注目を集めた。
金スポット相場はニューヨーク時間午後2時20分現在、前日比20.12ドル(0.7%)高の1オンス=2912.85ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は19.50ドル(0.7%)高の2920.60ドル。
原題:Stocks Hit by Wild Swings Amid Trade-War Jitters: Markets Wrap(抜粋)
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