トランプ氏とゼレンスキー氏の首脳会談決裂の原因は、ドレスコード違反にあるのではないか。一連の報道を眺めながらふとそんな気がした。事前にWHはゼ氏側に首脳会談の際にはスーツを着用するよう要請していた。ところが会談当日ゼ氏はいつものように黒っぽい長袖シャツで登場。ゼ氏はどこでも、誰と会う時もこのスタイルだ。これをみて誰も変だとは思わなかった。トランプ氏も車を降りたゼ氏を和やかに出迎えた。首脳会談が始まり記者の質問タイムになった時、1人の記者が質問した。「大統領、どうしてスーツを着て来なかったのですか」。最初、なんでこんな質問するのか、意味がわからなかった。質問した記者はスーツ着用というWHのドレスコード要請を事前に知っていたのだ。「あなたはウクライナの最高職に就いているのに、スーツの着用を拒否している。スーツをお持ちではないのか?」
ゼ氏の答え。「戦争が終わったら、その衣装を着るつもりだ。たぶん君たちのようなものかな?もしかしたらもっと良いものになるかもしれない。わからない。見てみよう。もしかしたらもっと安いものになるかもしれない。ありがとう」。ジョークだったのだろう。ゼ氏は質問の意味を全く理解していなかった。安いか、高いかではないのだ。記者は単純にスーツを着用しない理由を聞いているわけではない。WHの要請を拒否するということは、トランプ氏の意向には従えないという意思表示ではないのか?そう聞いているのだ。英紙テレグラフはこの記者について、保守系の新興メディア「リアル・アメリカズ・ボイス」のブライアン・グレン氏(56)だと報じた。WHのレビット報道官は少し前に「新興メディアにも大統領の記者会見を開放する」と発表している。トランプ政権はとにかくやることが早い。加えてこの記者は、トランプ氏の側近である共和党下院議員の恋人でもあるというのだ。スーツ着用要請を知っていた。
それだけではない。ジャーナリスト・山口敬之氏によるゼ氏はあと2つ間違いを犯したという。一つは首脳会談の中で両腕を組んだこと。も一つがJ・D・ヴァンス副大統領を「J D」と呼びかけたことだ。両腕を組むというのは自分の方が格上であることを意味するのだそうだ。J Dと呼びかけるのは親しいもの同士であれば許される。例えば、ロン・ヤスだ。山口氏は首脳同士の場合、愛称で呼び合うためには儀式が必要だという。中曽根氏とレーガン氏は愛称で呼び合うことを公式の場で確認しあっている。ゼ氏は首脳会談の中で3つミスを犯した。意図的ではないだろう。悲惨なウクライナの現状を最大の支援者であるトランプ氏に訴えたかっのだと思う。その上でプーチンの悪口を執拗に繰り返した。知らないうちに“トラの尾”を踏んでいたのだ。「これでは交渉のテーブルなどセットできない」、トランプ氏はそう考えたかもしれない。ゼ氏の不注意ともいうべき振る舞いによって、トランプ氏の“堪忍袋の緒”が切れた。